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臥龍通信

臥 龍 通 信 第76号 <2004.04.25発行>
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  ◆ 臥 龍 通 信 第 76号 ◆
     企業経営とITと知的財産権

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    企業経営とITと知的財産権
企業経営とITと知的財産権

私の得意領域である企業経営とITと知的財産権について、今回はその歴史的な流れを私の経験からも整理してみたいと思います。

私がIT業界に就職したのは、1980年代の初めで日本のコンピュータは大型汎用コンピュータが全盛の頃でした。大型汎用コンピュータはメインフレームと呼ばれ、ソフトウェアはコンピュータのハードウェアのおまけ程度に考えられていました。その頃は、現在とは違いコンピュータの営業は広範囲な仕事をこなしていました。私は営業職として会社に採用されましたが、その当時の営業職は営業業務の他に、エンジニア教育を徹底的に受けたSEの能力もありましたから、顧客のサンプル・プログラムなどは営業がプログラミングして、結果を顧客に提示するといった仕事もしていました。私は、営業に配属される前にアセンブラーとコボルのプログラミング教育とシステム構築教育を夜遅くまで6ヶ月以上も徹底して教育されました。また、営業職の仕事として最も重要なことは提案営業業務ばかりでなく、受注した案件のプロジェクト管理やコスト管理で、当時の営業職は受注案件の集金までを完璧に遂行することが要求されました。

1980年代の中ごろには銀行や証券で漢字プリンターの採用が始まります。それまでカタカナだった企業業務に漢字が急速に普及していきます。当時の企業漢字プリンターシステムは1台が5000万円や1億円しました。顧客の名簿を漢字化するためには、顧客1人に100円以上のコストがかかり、100万人の名簿の漢字データを作成するだけで1億円以上のコストがかかっていました。日本の企業が漢字化システムを導入する時期に、私は得意の韓国語で世界最初のハングル・プリンターのプロジェクトに参加します。世界最初のハングル・プリンターはその後韓国政府機関や大学に採用され、ハングル・プリンターの海外営業もサポートすることになります。また、この時期に、NTTのテレックスをPCシステムとして実現させるプロジェクトにも参加し、後にNTTのテレックスを日本市場から駆逐して、NTTのレンタル事業を壊滅させるという仕事にも参加しました。

私は1980年代に様々な業種・業態のシステム開発を経験して、企業業務システムのパッケージ化を進言しました。企業業務のパッケージ化は企業業務システムの開発費用や期間を短縮し、何よりも顧客の要望するシステムを早く実現できるメリットがありました。しかし、結論は1970年にウィンストン・ロイスが発表したウォーター・フォール・モデルの開発手法でオーダーメードの顧客ごとに開発する企業業務システムだから、開発費用も膨大になり売上も確保できるのに、顧客のために開発の費用を安くし期間を短縮しては、売上の減少になると却下されました。 日本の企業では企業業務パッケージなど採用する企業もなければ、売れるはずもないし、何より売上が減少するから、だれも開発もしないというわけです。

私は1994年に日本最初のERPの開発に参加して、現在顧客企業1000社を超える企業業務パッケージの成功で、この時の無残に却下された提案が正しかったことを証明できました。ドイツのSAPがまだ「ERP」という呼称を使う前から「ERP」の概念を導入したシステム開発と営業の勝利でした。

日本のITに対する政府の重点施策は、首相官邸に設置された高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(通称:IT戦略本部)による平成13年(2001年)からのe-Japan戦略から始まりました。日本政府がITに対する本格的な施策を考え始めたのには理由があります。1995年のWindows95の販売以後、日本のITは急速に進むことになります。企業内ネットワークのLANやインターネットが普及し始めて、IT業界は急速に変貌していきました。日本のITは、1995年までは「コンピュータはOA(オフィス・オートメーション)」の延長と考えられていたように思います。あくまで企業業務の効率化のためのコンピュータであって、企業戦略の実現という明確な目的意識はありませんでした。

日本企業の経営が世界でも最高の経営と自信をもった1988年にくらべて、バブル崩壊を経験した日本企業が企業経営に自信を失っていた1995年当時に、それまでの企業経営の概念であった「企業組織論」や「企業会計論」に新たに「企業戦略論」が注目されます。1985年のマイケル・ポーターの『競争優位の戦略』の概念が、10年以上も遅れて日本で大きく注目されました。組織論で企業経営を考えてきたコンサルタントや学者も争ってポーターの戦略論に注目し、日本の経営者も経営学者も「企業戦略論」で企業経営を語るようになりました。この当時、「企業戦略論」には大きな応援者が存在しました。経営学者がどんなに「企業戦略論」を展開しても、企業経営者は「企業戦略論」の概念やコンセプトは理解できても、具体的にどのように企業で「企業戦略論」を実践していいのか分かりませんでした。「企業戦略論」概念やコンセプトを実現する方法論が必要だったのです。その「企業戦略論」の具体的な実現の方法論を提供したのはITでした。企業戦略を具体的に実現するのはITであり、企業業務パッケージである「ERP」や「SCM」であるとして、日本企業の企業基幹業務のパッケージ・システムである「ERP」や「SCM」が、1996年以降日本企業で争うように採用され始めます。企業の競争戦略実現のためのコンピュータ・システムの採用と、開発コストと開発期間を最小にするスピードの経営を実現するために「ERP」や「SCM」が、「企業戦略論の概念」と「企業戦略論を実現するIT」が同時期に合体した形で日本では普及拡大していきました。「企業業務の効率化のためのOA」というコンピュータは「企業の経営戦略を実現する最も重要な企業経営の道具」として変貌したのです。

日本ではあまり知られていませんが、「ERP」の概念を提唱したのは米国Dun&Bradstreetのガートナー・グループで、私はDunで日本最初の「ERP」の開発と「ERP」の概念普及のプロジェクトに参加し、後に「ERPフォーラム」や「SCMフォーラム」にも参加していきます。私が企業経営とITの分野をなぜ得意領域とするかは、皆さんはもうお分かりになったと思います。コンピュータは日本の企業経営の基幹業務を担当する重要な道具であり、企業戦略の実現を担う道具でもあるという意識は1980年代から私にはありました。 現在の日本企業の膨大な組織業務のプロセスを詳細に分析して、把握しているのは企業経営者でもなく、組織業務担当者でもなく、企業の基幹業務システムを構築するSEであることも知っていました。様々な業種・業態の日本企業の業務システムを開発するために、業務プロセスを詳細に分析していく過程で、顧客企業の担当社員よりもその業界企業の業務プロセスに精通していくことができました。経営コンサルタントが理解できない詳細な企業業務のプロセス分析と記述ができるようになって、IT能力のない経営コンサルタントの能力がいかに低いものかも理解できました。大規模な企業業務の実態を詳細に把握しているのは、もはや経営者でもなく、企業管理職でもなく、企業経営のコンサルタントでもなく、企業基幹業務システムを開発するエンジニアであることを実感する日々でした。 当然、企業経営の「戦略論」とITの「ERP」の登場で、日本の「経営コンサルタント」はITを理解することが必要になり、「ITコンサルタント」は企業経営の組織論や戦略論を理解することが必要になりました。つまり、企業経営とITのコンサルタントの融合が、1995年以降に日本で急速に進むのはまさに理由があったのです。そして、日本の企業経営の重要な戦略項目となったITの認識は、日本の企業経済の重要な問題として国家政策としても認知され、首相官邸に設置された高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(通称:IT戦略本部)による平成13年(2001年)からのe-Japan戦略へとつながっていきます。

私は、1998年以降は日本のIT業界のITコンサルタントとして働き、また学会の幹事委員や運営委員として学会に参加して、大学院では最先端の経営工学やソフトウェア工学を学ぶことになります。業界団体の講師ばかりでなく、様々な企業の経営者セミナーや管理職セミナーの講師としても講演するようになり、大学での大学院生や教授の勉強会の講師も勤めるようになります。ビジネスの現場の専門家という側面だけでなく、アカデミックな研究者として学会や大学院での発言をしていくようにもなります。欧米やアジアのソフトウェア企業やソフトウェア産業が台頭し始める時期に、私は日本のIT産業の現状と政府のIT戦略の真っ只中で、日本のIT産業に対する危機感を痛感していきます。

そして、2000年以降に始まる「ビジネスモデル特許」の流行は、一面的でしたが知的財産権が企業経営やITにとって、重要な戦略項目であることを認知させます。ITにとって知的財産権がいかに重要であり、企業経営にとっても知的財産権がいかに重要かを考えさせる機会を「ビジネスモデル特許」は日本社会に提供しました。2000年の4月に日経BP社主催の「ビジネスモデル特許」の講演は、『ビジネスモデル特許 基礎と実践』の出版記念講演として700名定員の日本経済新聞社大講堂を埋め尽くす業界人の集まりで開催され、日経コンピュータ別冊として出版されたこの本は、日本のIT業界に知的財産権の重要性を大きく認知させるとともに、知的財産権関連の弁護士や弁理士に多大な衝撃を与えました。日本の知的財産権関連の弁護士や弁理士は、日本のコンピュータ業界No1の業界紙が知的財産権の本を出版するとは夢にも考えなかったのです。その後、「ビジネスモデル特許」は大ブームとなり、経営コンサルタントやITコンサルタントが知的財産権の弁理士と一緒になって、約40冊ほどの本が出版されることになります。この年から私の共著本や単行本の執筆も多くなり、企業で仕事をしながら、年間に50回以上の講演をして、さらに3年間で10冊の本の執筆をすることになります。

知的財産権の業界はIT業界や企業経営の業界の参入によって、大きく拡大し社会的にも注目され始めます。日経BP社『ビジネスモデル特許 基礎と実践』という本は、IT業界からの知的財産権に対する問題提起でもありましたが、この本は、知的財産権を企業経営の重要な戦略として位置付け、さらにはソフトウェア特許やビジネスモデル特許の存在を日本のIT業界の重要な戦略項目であることも認識させました。この本は日経BP社始まって以来の大ベストセラーになり、私は「企業経営とIT」の専門家から「知的財産権」の専門家として認知され、IT業界に25年で約2万人の業界人と名刺交換してきて、IT業界に7000人以上のファンがいる「企業経営とIT」の専門家から「知的財産権」の分野の新たな専門家として支持者を得ることになります。 私は日経BP社の日経コンピュータという雑誌の別冊という形で出版した『ビジネスモデル特許 基礎と実践』という本によって、日本のIT業界が欧米のERPに席巻されている現状を、「ビジネスモデル特許」という新たな問題を提起することで、ソフトウェアが特許であることを日本のIT業界に注意を喚起したかったのです。マイクロソフトのWindowsが当時1700以上のソフトウェア特許の集合体である事実に私は愕然としましたが、日本企業の基幹業務システムのERPも膨大な特許の集合体であることに危機感を覚えました。我々はソフトウェアを購入しているのではなく、ソフトウェアのライセンス料を払っているのだと実感しました。日本の当時のITエンジニアにはソフトウェアが特許であるという意識はほとんどなかったのです。

欧米のソフトウェア特許訴訟やソフトウェア特許の歴史を学ぶうちに、私は日本のIT業界の未来のためにも知的財産権の存在を日本のIT業界に戦略としても認知させる必要があると痛感しました。企業の知的財産部は知っているが、全社的なエンジニアには全く教育もないIT業界の知的財産権の現状を私は大きな危機感をもって受け止めたのでした。 日本では、製造業の特許だけが注目されますが、結果として企業経営の重要な戦略項目として特許は日本社会で広く認知されるに至りました。たしかに知的財産権はITと同様に、社会的な認知を超えて国家政策の重要な課題として認識されるに至りました。しかし、知的財産権は製造業の特許だけではありません。輸入超過の日本のITのソフトウェア特許も重要な問題ですが、企業戦略としてのブランドの認識も日本ではまだ十分ではありません。

現在、「企業経営とITと知的財産権」を基本に、私の関心事は高度な知的財産権を創造する企業の社員教育や大学生・大学院生教育に移りつつあります。加速度的に進歩し、増加し続ける科学技術と加速度的に陳腐化していく人間知性のギャップをなくすことができる大学や企業の教育の在り方が私の今後のテーマになるでしょう。アジアの教育や北欧の教育をベンチマーキングしながら、日本で可能な新たな知性教育の方法論を今後は具体的な企業や大学という場で実証していきたいと思います。

参考資料:
臥龍通信 第45号 日本のITの基礎知識(1)
臥龍通信 第46号 日本のITの基礎知識(2)
臥龍通信 第47号 日本のITの基礎知識(3)
臥龍通信 第48号 日本のITの基礎知識(4)
臥龍通信 第49号 日本のITの基礎知識(5)
臥龍通信 第74号 日本のIT産業の実力

中嶋経営科学研究所 所長 中 嶋  隆


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