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臥龍通信

臥 龍 通 信 第55号 <2003.06.07発行>
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 ◆ INDEX ◆

  ◆ 臥 龍 通 信 第 55号 ◆
    『日本の知性は死んだのか?』

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 ◆ 臥 龍 通 信 第55号 ◆
   『日本の知性は死んだのか?』

2003年6月25日に、日本プラントメンテナンス協会から新しい本を出版します。
2001年に同じ日本プラントメンテナンス協会から出版した『知的財産経営』に続く、本格的な日本人知性の問題を取り上げる時期と考え、様々な専門家の協力も依頼し今回の本の出版となりました。

今回の執筆に参加していただいた専門家は、バイオテクノロジー領域の知的財産権の専門家で政策大学院大学助教授の隅蔵康一さん、米国Pl-x社 の日本法人代表取締役社長で米国弁護士でもある大津山秀樹さん、大学・大学院生の全国組織BLS事務局長西村由希子さん、BLSから生まれた学生起業によるバイオベンチャー企業のリバネス代表取締役丸幸弘さん、株式会社ヒューマンコミュニケーションズ代表取締役で農林水産省産業構造検討会特別委員でもある阿比留みど里さん、さらにアジアの領域では『韓国企業モノづくりの衝撃』の著者で米国のモノ作りにも詳しい塚本潔さん、『強い中国は「清華」が作る』の著者で清華大学出身の数少ない日本人の遠山哲央さんなど、アジアをベンチマーキングできる専門家にも執筆に参加していただきました。

今回の臥龍通信は、新たな本のご紹介を出版に先駆けてお届けいたします。
『日本の知性は死んだのか?−アジア時代の新ナレッジ・パラダイム−』
編著者:中嶋 隆 日本プラントメンテナンス協会 2003年6月25日出版

新たな時代に挑戦する日本人に向けて

世界第二位の経済大国である日本は、世界に誇る資金力と人材力と技術力があるとマスコミでは報道されます。日本は必ず復活すると報道される一方で、日本経済の低迷はさらに深まっているとも報道されます。現在の日本社会に蔓延する無力感や脱力感は、単に経済だけの問題でしょうか。日本経済が復活すれば、現在の日本社会の問題点はすべて解決されるのでしょうか。 私はとてもそのような考え方はできません。日本社会で進行している外国人による治安の悪化、安全な住環境や食環境の破壊、日本の組織モラルの低下、青少年犯罪の増加と凶悪化、奇妙な宗教集団のテロや暗躍、北朝鮮問題を代表とする国家防衛など、すべては日本経済で解決できる問題なのでしょうか。日本社会でこれまで重要であった多くのものが崩壊しているように思えるのは、私だけでしょうか。 本書は、日本の現状を正確に把握するために、アジアをベンチマーキングしました。現在のアジアと日本の比較が、現状の日本を正確に把握する最も的確な方法と考えられたからです。生物は少しの変化が変化と認知できません。人間も同じで、悪化する日本の変化が少しであれば認知できず、少しの変化が長時間継続し大きな変化となっても変化を認知できないのです。日本の変化を正確に把握するためには、日本の変化の中にあるのではなく、アジアという別の変化の環境から、日本の変化を見る必要があったのです。

日本経済に限って考えても、世界有数の資金力と人材力と技術力を持ちながら、経済の低迷から抜け出せない理由は何か。数年来、私はこの疑問に答えるものを探していました。日本には本当に資金力と人材力と技術力があるのか。もし、あるとすれば、日本の低迷は何が原因なのか。また、日本経済の低迷が日本の資金力や人材力や技術力の問題で解決がつくのか。私はアジアをベンチマーキングすることで、ある答えを見出したように思っています。

まず、第一の答えは、日本の資金力と人材力と技術力は、あるだけでは意味をなさないということです。日本の資金と人材と技術は、経済的な価値に変換する活用がなければ、具体的な経済価値を実現できません。アジアと日本の経済を比較すると、明らかに圧倒的な資金と人材と技術の日本が、乏しい資源のアジア国家に敗退しています。在るものを活用する経営力が日本にはないのではないか。これが私の日本低迷に対する第一の答えです。国家の資源である資金や人材や技術を有効活用する国家経営力や企業経営力が失われたのではないかということです。つまり、国家や企業を経営する卓越した経営力ある経営者の育成に失敗したというわけです。

第二の答えは、在るものをどう活用するかではなく、在るもの自体が相対的に陳腐化してしまったのではないかということです。資金は活用の方法は陳腐化しても円そのものが陳腐化することはありません。しかし、人材と技術は熾烈な世界競争の中で確実に陳腐化していきます。日本の企業組織や官僚組織の人材がレジャーランドのような大学を卒業してから30年以上働くのに、世界的な知性競争が激化する現状で組織人材知性の陳腐化を阻止できる十分な人材教育を行って来たかということです。つまり、日本の人材と技術は加速度的に陳腐化してしまったのではないかという疑問です。 私は仕事の関係上、米国、韓国、台湾、中国、インドなどの企業関係者と接する機会があります。1998年以降、アジアの企業関係者の変貌は驚くべきものがありました。企業管理職はほとんどがMBAか博士で、3ヶ国語以上で仕事をする企業関係者ばかりとなってしまいました。語学だけ考えても、MBAやMOTは2ヶ国語で論文執筆や講演の能力が要求され、博士は3ヶ国語以上の能力が要求されます。アジアの企業管理職のほとんどがMBAやMOTや博士の専門教育と3ヶ国語を使いこなす語学力を身につけた人材です。 アジア企業の経営は企業組織の知性において、日本の企業経営を打倒する大きな脅威になると2000年ころから感じていました。企業で働きながら、何度も大学院にチャレンジしていくアジアの企業管理職の姿は、企業知性の陳腐化を阻止する大きな原動力であり、社員全員に大学院へ通う機会を与える企業風土と教育制度に、アジア企業の無限の可能性を感じました。アジア企業の最先端の専門教育と語学教育を受けた卓越した人材の大規模投入は、韓国企業や中国企業の例をあげるまでもなく、数年でアジアの企業経営を激変させました。人件費が安いからアジアが勝っているなどの認識では、とても理解できない知性の高度化がアジアで進行しているのです。

第三の答えが、日本人の知性が低下したのではなく、アジアが欧米や日本を凌駕するほど知性が高度化したために、国際競争力が相対的に低下し、相対的に日本の知性が陳腐化したということです。日本の知性が加速度的に陳腐化したのは、あくまでも相対的な陳腐化であって、この日本人知性の陳腐化は日本人がアジア国家との比較なしには認識もできないし、考えもできません。 例えば、家電販売店でどの店も店舗で購入を決めて、早くても3日後在庫がなければ1週間後というのは日本では常識ですが、韓国や中国では早ければ数時間、遅くてもその日に配送されます。インターネット・ショッピングでも早ければ数時間、遅くてもその日には配送され、日本のように3日後や1週間後ということはありません。家電やPCが故障しても、韓国や中国は24時間修理ですが、日本は1週間や2週間はかかり、場合によっては1ヶ月ということもあります。韓国や中国の企業経営者が「日本のお土産でもはや買うものはないし、日本のサービスは最低です。」と言う声を聞くことが本当に多くなりました。日本にいれば気付くことのないことですが、韓国や中国にいけば、日本企業のビジネスがいかに非効率で顧客を無視した陳腐なものであるかが分かります。

第四の答えが、日本企業の競争戦略の認識が間違っているということです。日本では大企業が少ない人員と予算でアジア企業の成長の秘密を探ろうと一生懸命にベンチマーキングをしています。しかし、ベンチマーキングする以前に考えることがあります。現在、世界中で進行する企業競争は、企業間競争ではなく国家総力戦の枠組みの中での企業競争であるということです。つまり、国家資源をいかに有効活用するかの国家経営戦略の下で、アジアや欧米企業の戦略があるということです。卓越した国家経営者の国家経営戦略にしたがった企業経営者の企業戦略であるということです。日本企業がアジアで敗退するのは、企業競争ではなく国家競争の国家政府と戦っているという認識がないためです。日本企業はアジアでは、韓国政府や中国政府と戦っているのであって、個々の企業との戦いではありません。日本企業は個々の企業のベンチマーキングを実施しても、国家総力戦の経済戦争の中では意味をなさないことに気付いてはいません。つまり、日本には国家の資金や人材や技術などの国家資源をいかに有効に活用して国家経営するかという卓越した国家経営者の指導もなければ、国家総力戦としての企業経営の結集も具体的な産業戦略もないということです。日本企業は国家総力戦で国家を代表して戦うアジア企業に、国家としての産業総合力を結集できず各日本企業が各個撃破されていくのです。

世界有数の資金力と人材力と技術力をもってしても、経済の低迷から抜け出せない日本の理由について、いくつかの答えを述べましたが、日本で確実に失われたものがあります。海水浴場の500m先の養殖場で、消毒のために1回500リットルを超えるホルマリンを10年以上も流しつづけ、美しく安全な海を汚染してきた水産業、農薬使用の現状さえ把握できず、日本の土壌を汚染しつづけてきた日本の農業、産業廃棄物や農薬の放置で安心して飲めなくなった日本の水、青少年犯罪の激化と凶悪化で刑法犯5件に4件は逮捕されない治安、企業知性の陳腐化を阻止する企業人教育を怠って敗退する日本企業など、日本の貴重な財産を現在の日本人は数多く失っています。

本書は、日本が何を失い、何を取り戻さねばならないかを様々な視点で考えました。読者は「知らなかった。」と感じることが多くあるでしょう。 本書の第一章は、「日本の様々な業界の問題点」と「新たな日本再生の動き」を各専門家に執筆をお願いしました。 「日本の現状」と「新たな日本の挑戦」を具体的な現場の専門家の意見として展開してもらいました。 第二章は、「アジアの現状」を、日本と比較しながらアジア専門家に執筆してもらいました。 読者は、「急激に変貌した韓国と中国とインドの知性改革」に驚くことでしょう。 第三章は、まとめとして、「日本の様々な分野の現状と提言」を盛り込みました。 これまで「知らなかった」こと「知らされていなかった」ことから、「知ってしまった以上、何を変えるべきか」への指針が少しですが明確にできたと思います。

資料編は、私の専門分野である「日本のIT」と「韓国」と「関連資料」をまとめて、資料編として掲載しました。「知らなかったIT」、「知らなかった韓国」、「知らなかった統計」を実感していただけるでしょう。 本書は、読者の「知らなかった」の宝庫にしたいと思いました。第一章の「知らなかった日本の新たな動き」、第二章の「知らなかったアジア」、第三章の「知らなかったアジア比較の日本」、資料編の「知らなかったIT、韓国、統計」など、「知らなかった」を「知ってしまった」驚きが、「これからの日本をどう変えていくか」に発展するでしょう。本書を読んだ読者の「知ってしまった」驚きが、「21世紀のアジアをどのように日本人として生き抜くか」という読者の具体的な行動の指針となることを心から願っています。

平成15年5月 中嶋 隆


中嶋経営科学研究所 所長 中 嶋  隆


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