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臥 龍 通 信 第49号 <2003.04.25発行> http://www.Nakajima-MSI.com |
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| ◆ 臥 龍 通 信 第49号 ◆ 日本のITの基礎知識(5) |
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日本のIT業界のITコンサルタントや経営コンサルタントはITを道具だと言います。重要なことは道具をどう使うかで、道具そのものが重要ではないというわけです。しかし、膨大な最先端研究と特許集合体の現在の欧米ソフトウェア・パッケージを理解し、同じ物を作れるかというと日本のIT業界にその能力はすでにありません。理解もできず作りもできない道具を持ってきてどう使うかが重要だとは、どこに知性を置き忘れれば言えるのでしょうか。一昨年から売れている『ザ・ゴール』も20年以上も前のコンセプトで、そのコンセプトを最先端の知識のように話すIT業界のコンサルタントにも呆れます。ソフトウェア特許の分析と判断が全くできていない日本のIT業界は、ソフトウェア特許の侵害判断もできず、海外にソフトウェアを安心して輸出することもできません。日本のソフトウェア輸出は2001年で約90億円、輸入は約9200億円で日本のソフトウェア輸入は輸出の100倍以上です。IT立国日本を叫ぶ日本政府ですが、日本のソフトウェア・エンジニアの置かれている現状は悲惨です。満足な教育もなく、現場のすでに時代遅れの陳腐化してしまった開発手法などで教育をされる日本のエンジニアは不幸です。ブロードバンドや電子政府で日本人が騒ぐのはいいのですが、海外の見方は厳しいものがあります。「ダボス会議」を主催する世界経済フォーラムの「2002年 世界IT報告」では、日本のITの総合順位は20位で、アジアの台湾(9位)、韓国(14位)、香港(18位)に追いついてもいません。ITの法整備では52位、教育へのIT投資は61位、ブロードバンド環境は韓国の3位に比べて、65位と世界最低ランクでは日本のIT立国も遠いものに感じられます。 日本のITの弱点は、大学や大学院教育と現場のIT産業が連携した関係になっていないことにあります。高度なITの最先端教育は企業に入社して勉強できると考えて、大学の教育を受けようとしない大学生と高度なITの最先端教育を実施する時間的・資金的余裕もないIT企業の現状が、日本のITを効率の悪い無駄な資金と時間を浪費するものとなっています。大学生は時間と資金を「遊び」に使い、貴重な知性獲得のチャンスを生かそうとしません。IT企業は、時間的にも資金的にも全エンジニアの徹底したIT教育をする余裕がありません。工学系大学や大学院とIT企業の交流を促進し、地理的にも両者が近い立地が必要です。盛んに大学や大学院とIT企業が交流するには、距離的にも近くに両者が存在し、学生のインターシップなど現場で働くことが、大学や大学院で学ぶ知識が現実のIT企業の現場でも重要な知識であることを認識できる機会となります。IT企業の現場も大学生や大学院生の最先端のIT手法を素直に学ぶ協力関係が必要です。IT企業の現場で働くエンジニアと大学や大学院で勉強する大学生との具体的な開発現場での議論の交流は、お互いに大きな驚きと発見を生み出すでしょう。両者の持つ技術と知識の交流が、IT企業の最先端手法導入のきっかけにもなっていくでしょう。大学は運動場や自前の建物がないと認めないというようなことを言わず、IT企業の集積と工学系大学の集積を真剣に考えて、高度なIT知性の交流と集積の相乗効果を狙える新たな産業地域が生まれて欲しいと思います。 北京市中関村地域は東京23区ほどの広さがあり、中国産学連携の最大拠点として知られています。地域周辺には北京大学、清華大学をはじめ68の大学と中国科学院など213の研究機関があります。約1万の企業や研究機関に各専門分野の技術者約40万人が働き、大学・大学院生約30万人が学んでいます。中関村の大学ベンチャー企業(校弁企業)を中心とする中関村企業群の売上は2兆円を超え、2010年には9兆円を超えると予測されています。 インドのカルナタカ州のバンガロールは現在もっとも有名なインドのIT集積地として知られています。インド最高の知性が学ぶインド科学大学院大学を中心に、カルナタカ州には77の工科大学があり、毎年3万人の学部卒業生がいます。もともとインドのバンガロールは緑豊な都市で、市街地の40%が軍の土地で占められているインド軍需産業と軍事科学研究の拠点でした。戦闘機を生産しているヒンドゥスタン航空、戦車などを生産するバーラト重機、レーダーや無線機器生産のバーラト電機などインド最大の防衛産業がバンガロールに集積しています。また、通信機器の生産をしているインド電話産業、インド航空学研究所、インド宇宙研究機構、最先端コンピューティング開発センターなど軍事産業以外の研究開発機関もコンピュータ・エンジニアが8000人のウィプロ社を代表する世界有数のソフトウェア開発企業も集中しています。 限られた国家資産と国家人材をどう国家産業力として再編成していくかは国家経営力の問題ですが、国民の理解と協力も必要です。21世紀の知性を生み出す国民投資と国家投資を真剣に考える時期がITの分野でも来ています。 動き出したMOT(Management Of Technology) 2003年3月4日に、日本でも正式に技術経営を推進する「技術経営(MOT)コンソーシアム」が発足しました。IMDレポートで公表された日本の技術経営の遅れを克服するために2002年度から、経済産業省が技術経営人材育成に29億円の予算で、MOTカリキュラムの開発や実証事業を推進する産業界や大学などの92団体がMOTコンソーシアムに集結しました。技術経営(MOT)は優れた経営能力ある技術者の養成を目的としたカリキュラムで、経営学修士号(MBA)の技術者コースとも考えられています。MBAが優れた経営者を育成するコースならMOTは優れた経営能力ある技術者の育成コースというわけです。MBAの教育コースには、経営学のケースメソッドだけでなく、徹底的な技術工学教育や高等数学理論教育を実施して、現在のMOTに近い教育を行うMBA教育もあります。経営者に技術教育を実施するMBAも、技術者に経営教育を実施するMOTも、すべての企業社会人に経営と技術の高度な専門教育が必要なことにかわりはありません。やっと動き出したMOTですが、日本ではすべての企業社会人に開かれたMBA教育を確立するまでに至っていません。MOTも現状のMBAと同様に、ごく少数の社員教育として考えられるのでしょうか。MBAを資格と思う日本人ですから、MOTも資格と考えて企業の少数派として生かしきれずに終わるのでしょうか。MBAやMOTは企業経営者だけに必要なのではなく、企業で働く全社員にとって必要なのです。熾烈な国際競争を勝ち抜くためには、経営者だけではなく、企業経営の多くの部署で高度な経営教育や技術教育を受けた企業社員の知性こそが必要なのです。企業経営者で3%、社員で0.3%の日本のMBAなど、企業戦力になるわけがありません。MBAを生かしきれない日本の企業経営の中で、MOTもかけ声だけで終わるのでしょうか。韓国上場企業の利益総額30%の利益を1社で達成し、事務職2万5千人の中に博士1千5百人、MBA4千人が働く韓国サムスン電子は、今後数年で社員のMBA・博士率を22%から30%に拡大する予定です。世界のサムスン電子に対する評価は、サムスン電子の時価総額の大きさを見ても分かります。サムスン電子の時価総額は日立製作所と富士通とNECの3社の時価総額合計を超え、日本でサムスン電子よりも大きな時価総額企業はトヨタ、NTT、NTTドコモの3社だけとなりました。中国の朱鎔基、胡錦濤、呉邦国などの国家主導者を輩出する中国清華大学は、文京区と同じ広さのキャンパスに、学部生1万2千人、修士課程6千2百人、博士課程2千8百人が学び、教授9百人、助教授1千2百人が教えています。中国の清華大学は1984年にハーバード大学やMIT(マサツーセッツ工科大学)と提携したMBA教育をスタートさせ、2002年にはMBA教育の50%をハーバード大学合同プログラムにシフトしました。また清華大学のMOT教育は1996年にMITの協力でスタートしました。中国最大の工科大学の清華大学は、日本よりもはやく工科大学大学院生に、MBA教育やMOT教育を始めました。そして、中国のMBAやMOT教育の蓄積は中国の企業経営を大きく変貌させました。中国の国営企業の大改革を断行し、上海市長に就任し上海発展の基礎を築いた朱鎔基前首相は、清華大学出身のエリートで清華大学ビジネススクール初代の学長でもあり、大学院生の指導教授をするほどの実力がありました。卓越した国家経営者であるとともに、卓越した学術研究の専門家でもある中国の指導者は、日本の首相とは能力が違います。政治家も官僚も企業経営者も企業社員も、仕事をする国民のすべてが高度な知性の獲得の場としてのMBAやMOTの教育が日本ではやく確立され普及することを祈るばかりです。 |
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| 中嶋経営科学研究所 所長 中 嶋 隆 | ||||||
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