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臥龍通信

臥 龍 通 信 第 44 号 <2003.03.10発行>
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 ◆ INDEX ◆

  ◆ 臥 龍 通 信 第 44 号 ◆
    日本の産業競争力

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 ◆ 臥 龍 通 信 第 44 号 ◆
   日本の産業競争力

馬場錬成先生の著作『大丈夫か 日本の産業競争力』プレジデント社が3月1日に出版されました。馬場先生の筆力の冴えは衰えることなく健在で、年齢を感じさせないバイタリティを感じる著作でありました。日本の産業競争力は、なぜ低下しつづけているのか。私の意見は、カルロス・ゴーン氏が表現するように「日本には経営がない。」の一言に尽きると思います。日本には資金も人材も技術もあるのに、なぜ経済復興できないのか。日本の産業競争力は、人材力であり、資金力であり、技術力であると考えられていますが、日本の産業競争力=人材力+資金力+技術力ではなく、日本の産業競争力=経営力×(人材力+資金力+技術力)と考えるべきだと思います。国家や企業の資源(人材・資金・技術)をいかに活かして経営を行うかは、まさに国家や企業の経営力にかかっています。日本の国家や企業の資源(人材・資金・技術)がどれだけ豊富であっても経営力がなければ、資源は乏しくても経営力の高い国家や企業に敗退してしまうこともあります。

日本の資源を活かす国家経営力や企業経営力の低下が、日本の産業競争力低下の大きな原因と言えます。日本の経営者は企業の重要な意思決定を日々行う職責にあり、広範囲な専門知識が必要になります。専門担当部長クラスに任せていては、企業経営などできません。管理職に仕事を任せることは必要ですが、経営者が判断しなくてもいいというのとは訳が違います。任せたから仕事に対して管理職に責任があるのは当然ですが、経営者に決断の責任がないということではありません。部下に仕事は任せても判断や責任まで丸投げしてしまっては、経営者など必要ありません。

経営に必要な専門知識は様々あり、具体的に企業業務で実務に関与した経験と共に、組織や戦略の理論、マーケティングの理論、統計解析や確率論、経営工学や金融工学の数学理論、コンピュータ理論、財務会計理論、商法や知財法理論など、多くの分野の高い専門知識が、21世紀の経営者には必要です。MBA(経営学修士号)の話はよく聞くようになりましたが、ひとくちにMBAと言っても様々な違いがあります。経営学中心のMBA、経営・金融工学中心のMBA、コンピュータ技術中心のMBA、会計学や法学中心のMBAなど、MBAも多くの違いがあります。そもそも、MBAという資格は、資格取得が目的ではなく、専門知識の取得が目的であって、経営学領域と財務会計領域とコンピュータ領域と統計や確率の数学理論領域などの広く高い総合領域の専門知識が企業経営者の経営判断には必要であるという前提で、様々なカリキュラムがあります。自分では理解できない専門家の意見や提案を聞いて、経営判断をしていては21世紀の企業経営などできません。あらゆる専門家と激論するくらいの経営者でなければ21世紀の企業経営などできない時代にきています。

中国の国家経営は急速ですが、国営企業の大改革を成し遂げた清華大学出身として有名な朱鎔基前首相は、1988年には上海市長に就任し、上海経済発展の基礎を築きました。もし、朱鎔基市長でなければ、上海の発展は5年遅れていたともいわれています。その後、上海の発展を継続させるのは、同じ清華大学出身の胡錦濤氏と呉邦国氏で、さらに清華大学出身の黄菊氏でした。中国の理系の清華大学エリートが中国の国家経営を急速に進めています。1984年に中国で最初のビジネス・スクールを設立したのは理系の清華大学でした。清華大学大学院初代のビジネス・スクール院長は朱鎔基前首相で、大学院生の指導教授としても教鞭を取っていました。(『強い中国は清華が作る』一柳哲央著ぶんか社より)世界的な政治家であり、国家経営者であり、専門研究者であり、教育者でもある朱鎔基前首相を見るまでもなく、中国の国家経営は清華大学出身の高度な専門知識のある人材に支えられています。中国の政治家は自らが高度な国家経営の専門家であり、専門家や官僚に国家経営の決断を丸投げするような政治家など現在の中国には存在しません。現在の上海や北京の発展は、単に人件費の安い国家の経済的成功などではなく、高度な国家専門経営者の国家経営力によるものです。日本よりはるかに劣る人材力・資金力・技術力の中国製造業に簡単に追いつかれるほど日本の製造業とは弱いものだったのでしょうか。中国が日本を大きく上回ったものは国家経営力であり、企業経営力であったことを見逃してはいけないと思います。国家経営も企業経営も部分的な資源で優位にあっても、総合的な経営力で負けることがあることを忘れてはいけないのです。

国家や企業の経営資源である人材や資金や技術をいかに合理的に配分していくかは、経営力の問題です。世の中でスピード経営とは、経営決断のスピードですが、このスピード経営の具体的な内容は、経営資源の最適利用のための具体的な経営資源の再配分です。世界市場変化に対応したスピードある企業や国家経営資源の再配分を高度な分析力と判断力で実行する国家と企業の経営力が必要です。国家や企業の必要な産業や研究分野に対する人材と資金と技術の移転スピードが、国家の産業競争力を決定してしまいます。組織防衛に走る官僚組織や企業組織では、世界経済のスピードに適応していく国家や企業の最適な経営資源配分が硬直化し難しくなります。

日本でも大企業の倒産は暗いニュースに感じられますが、大企業の倒産はその大企業の顧客の開放であり、どこかの企業が倒産企業の顧客を必ず引き受けることになります。企業倒産によって、経営力のない企業から経営力のある企業への人材移転が顧客移転とともに発生します。企業倒産は新たな企業への新たな市場開放として機能し、新たな収益を創造し、その顧客を吸収するために新たな雇用も生み出します。また、新たな企業のための人材と資金と技術の移転サイクルを生み出します。視点を変えると、企業倒産は経営力のない企業の市場退席にともなう新たな市場の開放であり、新たな参入企業のチャンスであるとも言えます。日本の大企業が次々と倒産しても、次々と新たな企業が生み出され、市場の空席をうずめて再雇用が進んでいくというサイクルが市場の原理というものではないでしょうか。問題は新たな企業の経営を支える、人材と資金と技術を無駄にしない経営力ある人材集団が日本に育成されてきたかということだけです。

大学を卒業して世界的な知性競争にほとんどさらされなかった企業生活の30年間、現場経験だけで競争社会を乗り越えられると考えてきた日本企業ですが、21世紀の新たな経営者の創造と、企業社員のための企業内大学・大学院教育を始めた日本企業や大学院の知性で起業を目指し始めた日本の大学院生たちに、新たな時代の可能性の第一歩を期待します。国家指導者や企業経営者の知性の大改革を成し遂げたアジアの国々の台頭に遅ればせながら、21世紀の日本の産業競争力を維持・発展させるために、日本の知性コアの育成に努力したいと考えます。


中嶋経営科学研究所 所長 中 嶋  隆


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