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臥龍通信

臥 龍 通 信 第 43 号 <2003.03.10発行>
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  ◆ 臥 龍 通 信 第 43 号 ◆
    日本の安全保障

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 ◆ 臥 龍 通 信 第 43 号 ◆
   日本の安全保障

1994年から1995年に、かわぐちかいじ氏の『沈黙の艦隊』によって政治問題ともなった人類全体の安全保障の問題はいまだに解決されていません。人類の大多数が武力による戦争解決を望んでいないのにかかわらず、武力が国家に帰属するために武力行使の悲劇は終わることなく現在も続いています。21世紀を迎えても、人類社会の多くの国家と国民は、いまだに人類の崇高な理想を実現する世界を手に入れてはいません。人類社会に存在する戦争や飢餓や貧困はいまだ克服されてはいないのです。人類社会が期待する国際連合という組織も具体的な実行力がなく、国際連合も実体は強大な軍事力を背景とする大国の利害に振り回されます。21世紀の安全保障問題、食糧問題、エネルギー問題、環境汚染問題、経済問題など多くの国家は、自国利益を最優先に画策します。

中東の石油資源は21世紀になっても原子力の平和利用が安定しない限り、先進国の経済と国民生活の維持のためには重要なエネルギー資源です。米国は自国石油資源を温存し、海外の石油資源を使い果たすまでは海外の資源を利用するという戦略は、米国の生き残り戦略として非難されるものではありません。石油備蓄が約90日分(民間備蓄は約80日分)の日本は、中東の石油資源が枯渇した時のことなど考えてもいないでしょう。人類全体で生き残ることよりも、まず自国の国民が生き残れる戦略を政府が実践したところで、その行為を誰も非難はできません。人類社会はいまだに理想とはかけ離れた現実の世界で自国の現在と未来の安定を模索しています。限られた領土と限られた資源の争奪競争に、武力をもってしても勝利する覚悟の国家の集合体が現在の人類社会です。国家の生き残りのためならば、人間の命や財産や権利さえも無視する行為が横行するのが人類社会の現実です。

人類社会は1880年には、アジア諸国(中国・朝鮮・東南アジア・日本)が世界GDPの56%を占めていました。アジアはこの時期に、欧米諸国に圧倒的な経済力で存在していました。しかし1940年には、アジア諸国の世界GDPは19%まで低下し、英米諸国(米国・英国・オーストラリア・カナダ・ニュージーランド)が56%を占めるまでになりました。アジア諸国は1992年までに世界GDPの37%までに復活しますが、2025年までには、アジア諸国は世界GDPの57%まで発展すると予測されています。ハーバード大学のイグナティエフ教授は米国帝国論で有名ですが、2025年までには米国は世界平和のために多くのエネルギーを使い果たし、世界の警察だった米国に対抗する勢力が台頭すると予測しています。イグナティエフ教授は、中国・ロシア・国連・米国の四極構造を考えているようですが、私はアジア諸国にインドが参加した世界GDP60%を超える大アジア連合、英連邦諸国と南米・北米の大英米諸国連合、ロシアが参加した大欧州連合、そして連合に参加できなかったアフリカやアラブ諸国の国際連合の四極構造を考えています。

欧州連合は欧州委員会委員長のプロディ氏によれば、現在加盟国15ヶ国、人口3億8千万人ですが、2007年までにはポーランドやルーマニアなどの参加によって5億人を超えます。さらにロシアやウクライナの参加によって、最終的には10億人の欧州連合を目指しています。欧州は欧州から戦争をなくすために欧州連合を結成し、アラブはアラブ諸国連合を結成し、アフリカはアフリカ諸国大連合を結成し、東南アジアは東南アジア諸国連合を結成し、1国では解決不可能な21世紀の国家間紛争の地域的解決を始めようとしています。人口30億人を超える大アジア連合の動きなど、英米中心の世界が大きく変貌しようとしています。日本は21世紀にどの連合に参加し、エネルギーや資源を確保していくのでしょう。日本には30年後や50年後に生き残る世界戦略というものがありません。その場限りの八方美人で金をばら撒くだけの世界外交では、日本は21世紀に到底生き残れないと思います。軍事力を否定するなら、軍事力に匹敵するだけの世界的な情報収集機関が必要ですが、情報収集も米国任せでは日本は独自の外交など考えられません。

米国に頼りきった日本が、米国の世界秩序維持の疲弊で、米国に日本を守る力さえ衰えた時に、日本の安全保障はどうなるのでしょう。米国の世界秩序維持の力が健在である間は、無用な武力衝突も回避できましたが、米国の経済力と軍事力の相対的な低下で人類社会に何が起こるのか予測できない時代が到来します。米国が自国の税金と国民の命をかけて派遣する治安維持のための軍隊は、世界の41ヶ国の地域に及びます。米国が自国の資金と人命を尊重するということで、今後の世界の武力衝突に関与しないとすれば、これまで米国の軍事力でかろうじて安定していた地域にいったい何が起きるのでしょう。

また、世界の原子力発電機関から大量な濃縮ウランやプルトニウムや有毒な核廃棄物の流出が表面化しています。原爆数十発を作ることが可能な濃縮ウラン数百キロが秘密裏に売買される事態が起こるたびに、米国は国家予算で調査し、ウランの拡散を防ぐために数百万ドルの輸送費を使い数百万ドルのウランを買い取っています。原爆を作ることのできるウランやプルトニウムが数億円で取引され、誰でもウランを購入できる状況を放置していては、近い将来に多くの国家や犯罪組織が原爆を保有することになります。旧ソ連地域のカザフスタンが保有する600キロ以上の濃縮ウランを、ロシアが買い取る財政的余裕がなくイランが買い取ろうとした事件や、イタリアのマフィアが濃縮ウランを保有していた事件も発覚しました。国連のIAEAが発表しているだけで、世界で50件以上のウランの闇取引実態が明らかにされています。国連のIAEAはウランの売買情報を知っても、具体的なウランの売買の阻止や買取が出来る実行力がありません。米国が担っているのは、まさに現実の核の拡散防止の実践です。世界的な核物質の売買に独裁国家や犯罪組織が関与しようとして、米国と熾烈な競争を繰り広げています。北朝鮮の核開発だけが脅威ではなく、世界全体にひろがる核の闇取引が、世界を核の脅威に陥れています。北朝鮮が国家の防衛に本気で走れば、自国の原子炉を再稼動させることなく原爆を製造することなどは簡単なことなのです。恐ろしいことにソ連のアタッシュケース型原爆がソ連崩壊後管理されず、行方不明になっているとの情報さえあります。

米国は核攻撃に対しては核攻撃で報復ということも考えられますが、日本をはじめとする多くの国家は核武装した犯罪組織に対抗できません。米国の核拡散防止の監視体制は、世界50ヶ所を超える地域で実施され、必要があれば先進国の協調でウランの買い取りを実施しています。米国とイラクが対立を始めて10年以上の間、イラクは国連が96年以降、食料と医薬品のための石油貿易解除を利用して、禁止されていた外貨保有協定を破り、国連発表分だけでも約23億ドルの外貨を保有し、飢餓や病気に苦しむ国民のために外貨を使うのではなく、大量の武器や化学兵器の開発ために使ったと考えられます。そして、イラクに武器や軍事物資を供給し金儲けしたのは、フランスでありロシアでした。米国が世界の秩序維持のために人命と税金を使っている間に、米国の核拡散防止や大量な武器拡散防止に協力するのではなく、武器を売って金儲けする国家が米国を非難するのが現実の姿です。米国が最も危機感を感じているウランや化学兵器の拡散にどれほど日本が貢献できるのでしょう。米国の軍事力の低下にともなう、具体的な日本防衛のための、危機管理体制の確立が急務です。

日本の石油輸送ルートの公海上では、現在でも海賊が出没します。年間50件を超える船舶襲撃の海賊行為が現実に起こるのです。世界中の紛争地域の治安維持に米国の軍事力が期待できない場合、世界は今よりも平和になるのでしょうか。世界の秩序維持を担ってきた米国の軍事的限界が来つつあります。冷戦が終結し、軍事衝突の危機がなくなっても、人類社会を脅かす地域紛争や細菌兵器や化学兵器や核爆弾の拡散に対する国際的な危機はなくなりません。米国に頼りきってきた人類社会の秩序の在り方が21世紀を迎えて大きな岐路に立っています。

湾岸戦争の時に、イラクは関係ないイスラエルにスカッド・ミサイルを約50発も打ち込みました。イラクがクウェートに侵攻し始まった湾岸戦争をアラブとユダヤの戦争としたいイラクの暴挙は、イスラエルの報復を予想させましたが、米国の説得でイスラエルはイラクへの報復を思いとどまりました。東京にスカッド・ミサイルが50発打ち込まれたら、数万人の被害も考えられます。もし、韓国や日本が北朝鮮から200発のミサイルを打ち込まれ、船に搭載された原爆を東京湾で爆発させても、米国が報復するだけの力がなくなれば、日本人はどうやって報復するのでしょう。弾道ミサイルに核を搭載する技術が北朝鮮にはないと評論家はコメントしますが、北朝鮮の船が日本中の港に来ている事実を考えれば、東京湾で船に搭載した原爆を爆発させることは簡単なことです。核武装し日本国民の安全を脅かし、不当な要求する国家や組織に、米国の援護なしに日本政府はどう対応するのでしょう。日本の安全保障を担ってきた米国に限界が来る21世紀に、日本は新たな連合と自国の安全保障を考える時期に来ています。北朝鮮が日本にミサイルを打ち込んでも、東京湾で原爆を爆発させても、国際社会は非難するだけで日本のために具体的な制裁などはしてくれません。現在の米国以外にどこの国が自国の税金と人命をかけて日本のために北朝鮮と戦ってくれるのでしょうか。日本と北朝鮮が戦争に突入した場合、韓国でさえ中立を宣言している状況で、米国以外のどの国家が一緒に戦ってくれるのでしょうか。どこの国が放射能汚染された地域に救援隊や物資を送ってくれるのでしょうか。

10億円ほどの資金があれば、誰でも核爆弾を保有できる現実が人類社会には存在します。核や細菌兵器や化学兵器の拡散の脅威に戦慄する時代に、周囲が海の日本では核などの大量殺人兵器の持込など防ぎようがありません。いまだ未熟な人類社会の非情さを日本は真剣に考えなければならない時期に来ています。人類社会は、いまだに国家防衛のための徴兵制度を持っている国家が85ヶ国も存在します。人類社会は1国防衛から集団防衛へと移行を始めています。国家防衛の人的・資金的コストをどう考え、未来の国家繁栄を確保するのか。20年後の世界のシナリオを前提に弱体化した米英連合で行くのか。大アジア連合で行くのか。また、欧州連合やその他の国連諸国と組むのか。世界の各地域での諸国連合の台頭や中国を中心とする新たなアジア諸国連合の台頭に、弱体化していく日米同盟の意味の再検討と日本の具体的な21世紀の国家防衛という生き残り戦略が必要になっています。


中嶋経営科学研究所 所長 中 嶋  隆


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