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2005.06.04
危機意識なき日本

中嶋経営科学研究所 所長  中嶋 隆


危機意識なき日本

長崎県対馬沖の日本の排他的経済水域(EEZ)内で韓国アナゴ漁船「シンプン」が対馬海上保安部の海上検査を拒否して逃走した事件で、海上保安庁と韓国海洋警察庁は2日、漁船側が漁業法違反(立ち入り検査忌避)容疑を認めることを条件に、漁船と船長の身柄を日本側に引き渡さないことで合意しました。日本側の船艇は2日午後6時過ぎに現場海域から撤収を始めました。両国の船艇が韓国の排他的経済水域で日韓の巡視艇が13隻もにらみあう異常な事態は発生から約40時間を経て解消されました。

事件は5月31日午後11時半ごろ、長崎県対馬市の三ツ島灯台の北東約50キロの対馬海峡(日本のEEZ)を航行していた韓国アナゴ漁船「シンプン」を巡視艇「たつぐも」が見つけ停船命令を出し、海上保安官2人が立ち入り検査のために乗船したが、アナゴ漁船「シンプン」は2人を乗せたまま逃走して、6月1日午前1時50分過ぎに日本から北北東約60キロの韓国の排他的経済水域で漁船は停船し、その後日韓両国の船艇がにらみあう事態が続いていました。

この事件は、ほんとうに日韓の関係にとって運の良い事件だったと思います。韓国側の冷静な対応と日本の政治判断が日韓の関係をぎりぎりで維持する結果になったのは奇跡でした。

日本側の報道は、韓国漁船が日本の排他的経済水域で、違法な操業をしている可能性があって、韓国漁船を検査しようとして、逃げたことを問題として、今後の韓国漁船の操業のあり方を取り扱っていますが、今回の事件はそんな簡単な問題ではありません。

まず、韓国の李承晩大統領や朴正熙大統領の時代であれば、韓国の排他的経済水域に侵入して韓国漁船に警告弾をバンバン発射して、日本の巡視船の船体に大穴が開くような体当たりしていれば、日本の巡視船はすぐに韓国の艦船から無条件に攻撃撃沈されていました。理由は分からないが、日本の漁船が韓国艦船に追われて、日本の排他的経済水域に逃げ込んで来た日本の漁船を日本の排他的経済水域にまで進入して、警告弾をバンバン発射しながら体当たりをしていれば、日本の巡視艇は韓国艦船に対する攻撃を覚悟するはずです。今回は韓国艦船が冷静に韓国の排他的経済水域まで侵入して来た日本の巡視艇に冷静に対処したから大事件にならずに済みました。

日本の巡視艇が韓国の経済的排他水域まで侵入して、日本の巡視船に大穴が開くくらいの体当たりをしましたから、体当たりされた韓国の小さな漁船は最悪の場合、沈没したかもしれません。韓国の経済水域で韓国漁船を日本の巡視艇が体当たりして沈没させれば、韓国は韓国海軍と空軍で日本の巡視艇を韓国領域で撃沈する決断をすることになったでしょう。幸いに韓国の漁船が沈没しませんでしたから、日本の巡視艇も韓国側の攻撃を受けることはありませんでした。

また、韓国側の艦船が韓国の排他的経済領域で自国の漁船を攻撃している日本の巡視艇を当然の義務として攻撃撃沈させても、大問題になっていました。幸いにも韓国側の艦船が韓国の排他的経済水域に進入して来た日本の巡視艇に冷静に対応したために、日本の巡視艇への攻撃はありませんでした。さらに、韓国の排他的経済水域で韓国艦船と日本の巡視艇がお互いに攻撃しあって、負傷者や死亡者を出し、最悪は両国の艦船が沈没する事態になれば、日韓に大きな戦争危機が生まれるはずでした。

出所:「エネルギー白書(平成15年度版)」


2004年6月に開かれた韓日海上治安機関長会議で、『韓日漁業協定に違反した相手国漁船を発見したときは、無理な追跡、拿捕(だほ)は避け、相互間の通報により処罰を強化する』と合意していたはずですが、今回の事件は違法操業の可能性があるというだけで、韓国漁船を韓国の排他的経済水域まで追いかけて、沈没の危険性がある体当たりを繰り返したことは、結果として日本側に大きな行き過ぎがあります。もし、今回の事件で韓国領域に侵入した日本の巡視艇の韓国漁船攻撃を発見したのが韓国の軍関係の艦船であったならば、日本の巡視艇は撃沈されていたかもしれません。たとえ、韓国漁船に2人の海上保安庁の職員が乗っているとしても、巡視艇が韓国領域まで追って行く問題ではありません。

まず、今回の事件で問題なのは、日本の巡視艇は韓国漁船か北朝鮮漁船かを発見当時どのようにして判別したのでしょう。違法操業は日韓両国が連絡しあって両国が自国の漁船を取り締まることになっているのに、沈没の可能性のある体当たりまでして停船調査する必要性があったのか。さらには韓国領域まで追いかけて、韓国艦船からの攻撃の危険性を考えなかったのかということです。もちろん、日韓の排他的経済水域は両国の領海ではなく、公海に設定されたものでどこの国家の領域でもないことを考えれば、公海上でどのような法的根拠で沈没の危険性が高い体当たりまでして停船検査させなければならないのか。日本の漁船が突然に公海上で、韓国の艦船に分からない韓国語で停船を要求され、韓国人が乗り込んでくるようなことがあれば、驚いて逃げる漁船がないとは言えません。逃げれば体当たりをして警告弾をバンバン発射され、沈没してもおかしくない激しい体当たりをされ、強行に韓国人が武装して乗り込んでくれば、日本の漁民も激しく抵抗もするかもしれません。体当たりを繰り返し、日本側の職員が韓国船に乗り移るときに、海に転落するような激しい体当たりをしてまで、韓国船を検査するだけの証拠があったのか。また、誰も自由に航行できる公海上の経済水域に何らかの権利を認めるとしても、韓国の領域まで侵入して漁船を体当たりして沈没させても韓国側からは攻撃されないと海上保安庁がまじめに思っているとすれば、まさに平和ボケの極致です。公海上の経済水域であっても、韓国漁船が目の前に日本の巡視艇の体当たりで沈没すれば、韓国艦船の日本の巡視艇に対する報復攻撃は確実です。もし、日本側が武力衝突などありえないと考えているならば、韓国との武力衝突はもはや時間の問題です。人類社会が平和であるという意識を持つことは日本人の自由ですが、世界はいまだに50カ国以上の国家で戦争を続けています。決して平和でない人類社会で、今回の事件は運が悪ければ、韓国漁船の韓国領域での沈没と韓国国軍からの日本の巡視艇の攻撃撃沈、また韓国艦船からの日本の巡視艇に対する攻撃撃沈もありえた事件でした。

結果が幸運にも大きな事件にはなりませんでしたが、日本の現場の判断が国家間の大きな紛争や戦争のきっかけをつくることがあるという危険を感じる事件でした。今回の事件は罰金数十万円の違法操業事件ではなく、国家間の大きな武力衝突にも発展する可能性のあった事件である認識が日本には必要です。今回の事件を日本政府は貴重な教訓としなければ、近い将来に韓国漁船を沈没させ、場合によっては韓国の排他的経済水域で日本の巡視艇が韓国艦船に撃沈される大事件を起こすことになるでしょう。日本の報道では、韓国漁船の違法操業の取り締まり強化を強調する報道ばかりですが、今回の事件の教訓を真剣に考えないと取り返しのつかない紛争が生まれることを日本人は覚悟しなければなりません。北朝鮮だけでなく韓国まで完全な敵にするような、事件発生の可能性は今回徹底的に解決しておく必要が日本にあります。危機意識のまったくない日本ですが、戦争が起きてからでは遅いのですから、危機に対する日本政府や国民の感覚を今からでも鋭くしておく必要があるのです。

ちなみに、日本政府が強調する対馬の韓国漁船による漁業被害もありますが、対馬は現在日本政府から見捨てられた地方のさらに島であることで、地元経済は壊滅的です。約4万人の島民はどのように生き残るかで、観光事業を進めています。対馬の経済を現在支えているのは約8万人ほどの観光客でその半分の約4万人が韓国からの定期船による韓国観光客です。対馬の漁業以上に韓国からの観光客で対馬経済は成り立っています。政府の考えで大きな韓国漁船との事件を起こせば、韓国からの観光客が激減して、対馬経済は崩壊します。対馬を救ってくれているのは日本政府ではなく隣国の韓国観光客だと対馬島民は日本政府に属するのではなく韓国政府に属してもかまわないと言う島民も多くいます。都市の日本人は分からない日本の都市と地方のおかれている状況と意識には大きな認識のズレが生まれています。

最近は進展がない北朝鮮問題も日本には危機感がありません。北朝鮮の六カ国協議は日本政府や日本国民が考える以上に綿密に計算されているかもしれません。北朝鮮の核問題は日本が考える以上に簡単ではありません。六カ国協議に参加している米国、ロシア、中国は核兵器保有国です。そして、韓国の在韓米軍は確実に核兵器を保有していると考えられ、韓国は核兵器保有国でなくても米国の核兵器に守られている核保有国同然で、日本の駐留米軍も確実に核兵器で武装されていることは明白です。日本も核兵器で武装した駐留米軍に守られている核保有国同然の国家です。つまり、核保有国の米国、ロシア、中国と米国の核兵器で武装されている韓国と日本が存在し、北朝鮮だけが核兵器で武装することが許されないとは不公平ではないかという主張が可能です。北朝鮮の核兵器の放棄を要求するのであれば、韓国と日本からの完全な米国軍の核兵器武装の放棄を北朝鮮は主張するでしょう。日本と韓国の駐留米軍の核武装の放棄を完全証明しなければ、北朝鮮は核兵器の放棄を完全証明しないという主張がありえます。日本と韓国の領土に存在する駐留米軍の核武装放棄は事実上不可能です。日本と韓国の駐留米軍の核兵器が許されるならば、北朝鮮も中国やロシアの駐留軍が核兵器を持ち込んで、事実上核兵器に守られた北朝鮮になっても許されるということです。北朝鮮の核兵器問題が韓国と日本からの米軍核兵器の排除にあるとすれば、日本は新たな危機に直面します。もし、北朝鮮が在韓米軍と在日米軍の完全な核兵器武装の放棄確認を日韓に要求すれば、日韓はどう答えるのでしょうか。在韓米軍と在日米軍の完全な核武装放棄の確認ができなければ、北朝鮮は核武装を放棄しないと宣言するときに日韓はどのように対応するのでしょうか。日本に入港する米国原子力空母や原子力潜水艦やイージス艦などの米国艦船の完全な核査察などできない日本は日米の安全保障で大きな障害を抱えることになります。二国間で問題解決できない国家は六カ国になっても問題解決ができるとは考えられません。日本政府だけでなく日本国民の陳腐な知性が日本と言う国家をさらに危機へと追い詰めています。

参考文献:
公開コンテンツ「日本の化学兵器の中国遺棄問題」
公開コンテンツ「危機意識なき日本」
臥龍通信第123号「郵政選挙(終わりの始まり)」
臥流通清第122号「日本社会の貧困」
臥龍通信第121号「郵政民営化法案の欠陥」
臥龍通信第120号「日本の政治の構造改革」
臥龍通信第119号「戦後60年の政治」
臥龍通信第118号「戦後60年の総決算」
臥龍通信第117号「独裁政治への道(郵政民営化法案騒動)」
臥龍通信第112号「日本の戦後と靖国問題A」
臥流通清第111号「日本の戦後と靖国問題@」
臥龍通信第109号「東シナ海ガス田問題」
臥龍通信第108号「中国から見た日本」
臥龍通信第106号「最近の中国対立」
臥龍通信第98号「日本の対中貿易」
臥龍通信第96号「中国のエネルギー戦略」
臥龍通信第94号「日本の教育」
臥龍通信第90号「韓国技術エリートの台頭」
臥龍通信第87号「IMDと社内大学」

参考資料:「公開コンテンツ」
No タイトル 作成
22  日本の官僚主義 2005.03
21  変化する日本と世界の関係(7) 2005.03
20  変化する日本と世界の関係(6) 2005.01
19  変化する日本と世界の関係(5) 2004.12
18  変化する日本と世界の関係(4) 2004.12
17  変化する日本と世界の関係(3) 2004.10
16  変化する日本と世界の関係(2)世界貿易ランキング(2003年) 2004.09
15  厳しい国家財政 2004.08
14  変化する日本と世界の関係(1)日本の貿易 2004.02.
13.  プロフェッショナルへの道(1) 企業組織で働く覚悟と準備
 プロフェッショナルへの道(2) 企業組織で働く現実
 プロフェッショナルへの道(3) 営業プロフェッショナルへの道
 プロフェッショナルへの道(4) システムエンジニア&ITコンサルタントへの道
 プロフェッショナルへの道(5) 研究機関研究者への道 
2003.09
12.  企業経営学と国家経営学 2003.08
11.  知的財産権の新たな潮流 2003.08
10.  アジアの台頭 (1) 〜 アジアマネーの台頭とアジアの経済発展  
 アジアの台頭 (2) 〜 米国の中国人ネットワーク
 アジアの台頭 (3) 〜 インドのIT産業政策とインドのソフトウェア産業
 アジアの台頭 (4) 〜 アジアの経済規模
 アジアの台頭 (5) 〜 世界の大学生と大学院生
2002.12
9.  韓国固有の価値観 (1) 〜 韓国語の価値観
 韓国固有の価値観 (2) 〜 韓国社会の価値観
 韓国固有の価値観 (3) 〜 韓国の政治における価値観
 韓国固有の価値観 (4) 〜 韓国の企業経営における価値観
 韓国固有の価値観 (5) 〜 韓国人の価値構造
2002.05
8.  韓国の歴史的社会文化構造 (1) 〜 韓国人の血縁
 韓国の歴史的社会文化構造 (2) 〜 韓国人の地縁
 韓国の歴史的社会文化構造 (3) 〜 韓国の軍閥と学閥
 韓国の歴史的社会文化構造 (4) 〜 韓国の財閥
2002.05

参考資料:「臥龍通信」
発行日 発行No タイトル
2004.09.05 第87号  IMDと社内大学New
2004.09.05 第86号  実力主義の「人間管理」と「能力管理」New
2004.08.11 第85号  日本の戦後問題 
2004.08.11 第84号  2007年問題 
2004.07.23 第83号  企業経営と国家経営 
2004.07.23 第82号  未公開株の取引 
2004.07.02 号外  スウェーデン・プロジェクト
2004.07.01 第81号  日本の政治の大改革 
2004.06.21 第80号  日本の21世紀の課題 
2004.05.25 第79号  美しい日本の国土再生
2004.05.10 第78号  激動する世界情勢
2004.05.10 第77号  現代日本の問題点
2004.04.25 第76号  企業経営とITと知的財産権 
2004.04.25 第75号  「韓流」の映画とドラマ 
2004.04.08 第74号  日本のIT産業の実力
2004.04.08 第73号  「科学技術」と「職人技能」
2004.03.29 第72号  「攻殻機動隊」と「イノセンス」
2004.03.12 第71号  日本近代史の分岐点
2004.02.22 第70号  21世紀の大学改革
2004.02.22 第69号  行動する日本人の時代
2004.02.12 第68号  21世紀の日本人と日本社会 
2004.01.27 第67号  国家経営力統計
2004.01.10 第66号  年金問題の本質
2003.12.02 第65号  日本マンガの実力
2003.12.02 第64号  日本の政治
2003.10.17 第63号  企業就労と健康と個人の幸福 
2003.10.17 第62号  知的財産権政策後退の阻止 
2003.09.26 第61号  地域主義の新たな潮流
2003.09.25 9月号外A  セキュリティ・ソフトについて
2003.09.05 9月号外@  コンピュータウィルスについて
2003.08.20 第60号  日韓の近代・現在史
2003.08.20 第59号  国連問題と日本外交
2003.07.10 第58号  国家経営力(2) 
2003.07.10 第57号  国家経営力(1) 
2003.06.25 第56号  特許戦略よりも知性戦略
2003.06.07 第55号  『日本の知性は死んだのか?』 
2003.06.07 第54号  経営力の時代(3) 
2003.06.07 第53号  経営力の時代(2) 
2003.06.07 第52号  経営力の時代(1) 
2003.05.21 第51号  「裁判員制度」の法制化  
2003.04.25 第50号  朝鮮半島の中国と米国の関係  
2003.04.25 第49号  日本のITの基礎知識(5)  
2003.04.25 第48号  日本のITの基礎知識(4)  
2003.04.25 第47号  日本のITの基礎知識(3)  
2003.04.25 第46号  日本のITの基礎知識(2)  
2003.04.25 第45号  日本のITの基礎知識(1)  
2003.03.10 第44号  日本の産業競争力
2003.03.10 第43号  日本の安全保障
2003.03.10 第42号  日本の知性創造サイクルの変革

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