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2003.09.25
プロフェッショナルへの道(4)
システムエンジニア&ITコンサルタントへの道

中嶋経営科学研究所 所長  中嶋 隆


プロフェッショナルへの道(4)
システムエンジニア&ITコンサルタントへの道


現在は、IT業界でも営業職とエンジニア職を分けて募集し、営業職のシステム教育を行わない企業も多くなりました。プログラミング教育やシステム構築経験もない営業職が、エンジニアの苦労も知らずにシステム提案し、エンジニアが営業職の交渉の苦しさも分からず規定どおりに受け答えすることもよく見かけるようになりました。営業職としては、競合を戦い抜くシステム提案が必要なのですが、システムが分からない営業職はエンジニアに期待します。顧客企業がどのようなシステムを必要としているかを営業から聞く側のエンジニアは営業職の分析力以上のシステム提案はできません。営業とエンジニアとのギャップが顧客企業への提案以前に存在します。

また、エンジニアは「要求されたシステム」をいかに間違いなく構築するかを問題にします。顧客企業や営業職の分析の結果による「要求されたシステム」を構築することがエンジニアの仕事ですが、顧客企業の「必要なシステム」と「要求されたシステム」の違いはエンジニアの判断ではないと思っていることもあります。具体的に言えば、顧客企業からの「要求されたシステム」が、業界でも陳腐化してしまったシステムであれば、営業職もエンジニアも「業界最先端のシステム」を提案すべきですが、営業職もエンジニアも顧客企業の要求するシステムに代替するシステム提案をすることはありません。まず、顧客企業から要求されたシステムを受注し納品してから、あらためて別の機会に再提案するのです。

ビジネスだから、顧客企業から依頼されれば「どんなシステム」でも引き受けるのは当然のことなのですが、顧客企業のシステム導入の利益を考えることはあまりありません。システム導入に対する費用対効果を具体的な数字で提案しないことも多く、費用対効果の測定が、システム導入を阻害し仕事が減ることになるならば、だれも顧客企業システム導入の費用対効果の測定をしようとはしません。 陳腐化したシステムを業界最高のシステムと思い込んでいる企業や費用対効果を明らかにせずシステム構築を考える企業など、顧客企業にも企業システムの費用対効果を考えない場合があります。 つまり、企業情報システムがどうあるべきかを把握してない企業と仕事優先のシステム営業と顧客企業のシステム導入効果を考えないエンジニアという状況は、現在も無駄なシステム投資を生み出してしまいます。企業競争力に直結しないシステムの導入が、いかに大きな無駄であるかを顧客企業もIT企業も真剣に考えず無駄な投資を放置してきたと言えます。 顧客企業の現状を分析し、必要とする情報システムを提案していくシステム営業には、企業戦略論や企業組織論や企業会計論などの知識が必要になりますが、IT企業の多くが営業にもエンジニアにも高度な企業分析教育を怠ってきました。

コンサルティング・ファームの経営&ITコンサルタントが、IT業界の頂点に踊り出たのも顧客企業の高度な経営上の現状分析ができるからでした。IT教育を受けたMBAや経営教育を受けたエンジニアのMOTが話題になるのも、企業経営の現状分析に高度な能力が必要になったことを意味しています。では、日本のIT企業の営業やエンジニアがMBAやMOTが、顧客企業のシステム提案に投入されているかといえば、現場のシステム提案の能力はMBAやMOTと投入できるまでになっていません。顧客企業も情報システム部門にMBAやMOTを大量投入しているかといえば、そうではありません。 また、MBAやMOTと言っても、現場経験のないMBAやMOTでは使い物になりません。

私の経験から考えると、業界最先端のシステム構築をするだけの知識能力と現場経験が日本のIT業界には欠けています。 例えば、私がコンサルタントする企業に対するシステム提案は常にシステム投資を6ヶ月で回収できる費用対効果があるシステムが提案システムの前提になっています。少なくとも3年は業界最先端を確保し、半年でシステム投資を回収し、その後は導入企業に大きな利益をもたらすシステムでなければ、顧客企業にプライドを持って提案はできません。 具体的に言えば、1990年代前半の通販ブームの時代に、通信とコンピュータの連動システムを構築し、ACD(電話交換機)と顧客注文システム(大規模業務LANシステム)との連動システムで受注効率を3倍にし、不良顧客排除のための顧客データベースシステムで、利益を6倍以上にするシステムなど、業界最先端システムを構築してきました。その後、顧客企業1000社を超える日本最初のERPの開発・販売など、SAPに先駆けてERPコンセプトを採用し、ERP・SCMのブームの先導もしました。最近では、企業内教育と評価と報酬を連動させる世界最先端のナレッジ・マネジメント・システムの構築など、最先端のシステムのコンセプトや具体的なシステムの構築にも参加してきました。

IT業界のエンジニアやコンサルタントが、言われたとおりのシステム構築を繰り返すだけでは、仕事のやりがいもありません。エンジニアの能力を高めるための勉強も必要ですが、企業経営の視点がなければ、高度な最先端のシステム開発の機会はありません。営業以上に企業経営の知識能力があり、システム開発でも卓越した能力があれば、多くの最先端システムの提案が可能になります。業界最先端のシステムの構築が新たなアイデアや能力を得る機会にもなってきます。エンジニアも本人の覚悟と努力では、コンサルティング・ファームのコンサルタントに負けない能力を発揮できます。

この頃は、コンサルティング・ファームも経営学中心のMBAが多くなりましたが、経営工学やOR理論や統計解析や確率論を駆使して企業経営とITとの連動で具体的な数値で費用対効果をコンサルティングできるコンサルタントは少なくなりました。 給料をもらい、勉強までさせてくれる企業での仕事は、新入社員の頃から時間を惜しんで勉強の機会を活用するべきです。大学卒業後の10年の努力が、エンジニアとしての将来を決定してしまいます。IT業界のエンジニアであれば、IEEEや電子情報通信学会などの学会との関係も考えておくことが必要です。学会の最先端のレベルを知っておくことは、将来のより高度な目標設定にも必要です。学会での交流は自分の日々のモチベーション維持にも十分に効果があります。目標とするべき人物や能力が明確になっていきますし、目標が明確であれば達成の方法論も具体的に考えられます。

すでに、学会では企業経営とITの融合分野の研究も驚くほど進んでいます。エンジニアが企業分析能力を学ぶことも学会では可能になってきています。エンジニアの能力だけでなく、営業に負けない企業分析能力もエンジニアの重要な能力と考えられる時代が来たのです。 さらに、IT業界のエンジニアであればIEEEの国際学会の論文を読むくらいの英語力も今後は必要になってきます。ソフトウェア工学を基礎とするシステム構築理論と現場経験、営業に負けない企業経営分析能力、国際的な情報収集のための英語力など、システム・エンジニアとしてのキャリアには多くの能力が必要です。企業に使い捨てにされないだけの能力の習得には10年以上の厳しい勉強の日々が待っています。

IT業界では、外資系コンサルティング・ファームのコンサルタントがいまや最先端の仕事と思われるようになりました。プライスウォーターハウス・クーパース、デロイト・トーシュ・トーマツ、KPMG、アンダーセン、アーンスト・アンド・ヤングが5大コンサルティング・ファームですが、現在は統合が進んでおり、アンダーセンは「アクセンチュア」に名称変更し、プライスウォーターハウスはIBMに買収され、KPMGは「ベリングポイント」に名称変更し、デロイト・トーマツは「プラクストン」に名称変更しています。 IT業界の最先端として、憧れの仕事としても考えられているコンサルティング・ファームの仕事ですが、その能力競争は熾烈です。企業経営分析に必要な経営学理論だけでなく、経済学理論やソフトウェア工学理論など、英語力以外に多くの能力が必要になります。著作や学会論文や業界紙寄稿など、外部からの評価も必要になります。華やかな仕事ですが、その地位を維持するためには、日々の厳しい努力が要求されます。すべての業務を知り尽くし、分業ではなく個人の能力ですべての業務を完璧に完結できる能力がコンサルタントには要求されるのです。部下に依頼しなければ業務全体を完結できない大企業の管理職では不可能な個人の多様な能力がコンサルタントには求められます。コンサルティング・ファームのコンサルタントはひとりの社員が、ひとつの企業として機能しているとも考えられます。それぞれのコンサルタントが独立してひとつの企業のように機能し、高度な専門性のコンサルタント同士は、協力はしても依存はしないという関係で協力して仕事をしています。だれかに仕事の一部でも依頼しなければ仕事が完結しないでは、コンサルタントとして不合格なのです。

ワードやエクセルやパワーポイントなども使いこなせない管理職が大企業にも多くいます。線形計画法や統計解析ソフトで業務シミュレーションできないばかりか、HTMLも理解しないインターネット企業の管理職がいます。自分の指示する仕事がどれだけの時間が必要かも知らない管理職が部下に仕事の指示をしています。日本の大企業の管理職がコンサルティング・ファームのコンサルタントと同様の能力があればといつも考えます。

米国のコンサルタントで経営学者のロバート・E・ケリーは、ブルーカラーやホワイトカラーという概念に「ゴールドカラー」という概念を提起しました。コンサルティング・ファームのコンサルタントのような卓越した能力の「知識労働者」をゴールドカラーと考えるわけです。私は企業管理職やエンジニアの究極の姿がゴールドカラーである時代が来ていると考えます。


関連資料
臥龍通信 第45号「日本のITの基礎知識(1)」
臥龍通信 第46号「日本のITの基礎知識(2)」
臥龍通信 第47号「日本のITの基礎知識(3)」
臥龍通信 第48号「日本のITの基礎知識(4)」
臥龍通信 第49号「日本のITの基礎知識(5)」
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