25.08.2003
中嶋経営科学研究所 所長 中嶋 隆 |
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| 知的財産権の新たな潮流 知的財産権の問題は、現在では「知財立国」の政府政策となって、知的財産権の産学官の連携へと大きく動き出しています。2003年になって内閣府に「知的財産国家戦略」会議が設置され、これまでにない知的財産権に対する各方面からの注目が集まっています。 日本国内では、盛んに産業復興の要と思われていた「IT立国」から「知財立国」へ完全に政府や民間企業の注目が移ってしまったかの印象さえ受けますが、知的財産権への注目が日本で変わり始めたのは2000年からであり、それまでは技術者や弁理士などの4万人ほどの小さな業界にすぎませんでした。 2000年の知的財産権とITと企業経営の融合問題として登場した「ビジネスモデル特許」の盛り上がりが、知的財産権業界を企業経営やITの業界でも大きな問題として取り上げられ、知的財産権業界は60万人を超える業界へと変貌しました。 知的財産権への注目の変遷は、2000年の「ビジネスモデル特許」を契機に、「ソフトウェア特許」や「欧米特許法」への注目を集めました。特許戦略については、すでに元特許庁長官の荒井寿光氏による1999年に出版された『特許戦略時代』(日刊工業新聞社)に、日本の知的財産権(政府戦略)に対する大きな危機感が現れています。2000年に出版された『知的創造時代の知的財産』(慶応義塾大学出版会)では、慶応大学の教授や馬場練成氏による共著で、知的財産権の重要性が大きく取り上げられました。この時期の知的財産権の注目は「特許」を中心とするもので、ITという新たな企業戦略の重要項目を意識した知的財産権の議論は、2000年に出版された『ビジネスモデル特許 基礎と実践』(日経BP社)から本格的に始まります。『ビジネスモデル特許 基礎と実践』(日経BP社)の執筆と監修を担当した私としては、知的財産権(ソフトウェア特許)IT業界だけでなく多くの業界専門家の議論としたい願いがありました。幸いにして、中小企業診断士、公認会計士、弁理士、弁護士、経営コンサルタント、シンクタンク研究員など、2000年は私の知人だけでも50名以上の執筆者によって36冊の「ビジネスモデル特許」の本が出版される大盛況となりました。 2001年に出版された『大丈夫か 日本の特許戦略』(プレジデント社)の著者である馬場練成氏は、著作の中ですでにゲノム特許への注目を取り上げました。読売新聞社で記者をしていた馬場練成氏の新聞社時代の後輩で、2002年に出版された『異脳流出』(ダイヤモンド社)の著者である岸宣仁氏は、著作の中で日本の産業力を支える異脳の人材を知的財産戦略との関連で、大きな国家戦略問題として取り上げました。2001年に私は『知的財産経営』(日本プラントメンテナンス協会)で知的財産権と企業会計との問題として、ブランド会計を取り上げ知財会計の動きを、国家戦略や企業戦略との関連で取り上げました。 そして、2002年に知財会計は新日本監査法人の二村隆章氏と岸宣仁氏の共著『知的財産会計』(文春新書)で詳細に解説されます。 2003年に出版された『特許戦略ハンドブック』(中央経済社)は鮫島正洋弁護士の編著で、特許関連の馬場練成氏や二村隆章氏など、私も執筆に参加して多くの専門家の議論が展開されました。 また『日本の知性は死んだのか』(日本プラントメンテナンス協会)で私は、知的財産権を創造する企業社員教育と企業経営力や国家経営力の問題を、「知的財産権を創造する人間教育」という側面から、アジアをベンチマーキングして議論を展開しました。 知的財産権の問題意識と議論の展開は、ソフトウェア特許やビジネスモデル特許から、ブランド会計や特許会計へと進み、バイオテクノロジーやナノテクノロジーの特許へと拡大していきました。 バイオテクノロジー分野では政策大学院大学の隅蔵康一助教授、知的財産権の評価問題は青山学院女子短期大学の菊池純一教授がそれぞれに研究を進めています。特許評価の実務については、PL-X社の社長で米国特許弁護士の大津山秀樹氏がいます。 2000年から始まった知的財産権の展開は、2003年の「知的財産国家戦略会議」という政府機関となって、今後は産学官の一体となった大きな動きとなりそうです。今後の知的財産権の展開に、新たな潮流の動きはあるのかと問われれば、私は始まったばかりで新たな潮流が更なる展開を始めると考えています。 企業戦略における、知的財産権の「特許戦略」と「ブランド戦略」のミックス戦略については、すでに2001年の『知的財産経営』で議論しましたが、日本企業が本格的な「ブランド経営」や「ブランド戦略」を企業戦略に組み込む重要性を力説しました。いまだ、ブランドを「商標」としか認識できない日本企業に、「ブランド」の価値と育成と戦略を提起したつもりですが、まだまだ日本企業の置かれている現状は「ブランド」を十分理解されているとはとても言えない状況です。特許の価値とブランドの価値が根本的に違うことや特許の創造とブランドの創造のための戦略も違うことが、日本企業では明確に認識されていません。「商標」という法的権利と「ブランド」の価値が日本企業では混乱して理解されており、「ブランド」の権利と価値問題は、今後の知的財産権分野における大きな問題だといえます。 「商標」問題で、考えなければならないのは、最近大きな問題となっている「青森」問題があります。「青森」の商標を中国で登録され、中国に対する輸出で「青森」の「商標」を青森県や青森の農業組合が、「青森」という「商標」では中国に輸出できないという問題が大きな注目を集めています。青森は「異議申し立て」をして、「青森」の商標を中国でも使用できるように動いていく予定ですが、「商標」や「ブランド」に対する日本人の認識の低さを露呈することにもなりました。中国で日本の各県名が「商標登録」されて、中国政府が認めてしまえば、日本の各県名を使用した特産物や農産物などが輸出できなくなってしまう状況に、各県や政府も対応を検討し始めています。 知的財産権の新たな潮流 知的財産権で考えれば、製造業を中心とする日本企業の「特許」や「技術」ばかりが注目されます。輸出のための工業製品を優先する考えは、国家産業力を考える時も「特許」や「技術」ばかりを重要視することにもなっています。技術とは工業製品や製薬製品ばかりに利用されるものなのでしょうか。知的財産権を日本産業復興の重要項目と位置付けることは必要ですが、工業部門ばかり注目していていいのでしょうか。 日本では、もはや農業や水産業や畜産業が産業として重要視されていません。 「日本人の食の安全」と「国民の健康」に直結する日本の農業や最産業や畜産業が、日本の重要な産業として認知されない状況は、将来の「日本人の健康問題」に大きな後悔を残すことになると思います。すでに厚生省は、「日本人の健康」のための食物有害物質調査を「日本の食生活調査」として始めました。「日本人の食生活」における有害金属や有害物質の摂取問題が重大な問題として取り上げられようとしています。 私が「知的財産権の新たな潮流」として取り上げたいのは、日本の農業や水産業や畜産業という見捨てられてしまった産業の知的財産権による復興です。日本人の健康のために、日本の農業と水産業と畜産業の復興を可能にする「知的財産権戦略」の利用を本格的に進める時期が来ていると思っています。バイオもナノテクもゲノムも特許として、日本の農業や水産業や畜産業の復興の大きな武器となりえます。農業や水産業や畜産業の高度な科学化と「ブランド」を十分に活用した「特許」戦略も必要となるでしょう。満足な教育や指導もなく、指導されたとおりの農薬を使い、全国で同じような作物を作ることを強要されてきた農業も、これからは、農業を科学し、日本国民の最低限の安全を確保し、知的財産権である「特許」や「ブランド」を活用し、世界的にも高付加価値の「高級ブランド」の農業作物の生産が可能な農業に変貌しなければなりません。 21世紀の知的財産権の新たな潮流とは、日本人の「食」の安全を確保する農業や水産業や畜産業の高度な科学教育と現場指導による「特許」戦略であり、「ブランド」戦略なのです。土壌微生物や作物改良(分子育種)や農薬影響の研究だけでも、大変な研究が必要ですし、全国的に現場で使える専門性の高い農業科学教育も必要になるでしょう。日本の大学研究者、弁理士、弁護士、中小企業診断士、公認会計士、ITコンサルタントなど、多くの専門家が日本の「食の安全」のために、各地方で新たな仕事を始めなければなりません。「日本人の食の安全」と「日本人の健康」を左右する農業や水産業や畜産業のプロフェッショナルの育成は将来の日本を考えれば、最も重要視しなければなりません。日本は海外に輸出するために工業製品ばかり生産し、日本国中を産業廃棄物で汚染してしまうようであれば、日本人はいかに金持ちになろうとも、危険な産業廃棄物というゴミの中に埋もれ、日本人の生命の危険さえ考慮しなければならなくなります。水も農産物も水産物も、もはや安全ではないという現状は、これから専門性の高い科学教育と知的財産権教育によって大きく改善されなければなりません。 日本の農業や水産業や畜産業が高付加価値の大きな産業として復興するためにも、知財関連の専門家の新たな産業復興のための活動が期待されます。汚い、辛い、儲からない産業を「科学教育」と「知的財産権」によって、新たな働き甲斐のある、しかも儲かる産業に変貌させることが、私は可能であると信じています。 農業分野の知的財産権戦略 日本の農業は、日本の工業化と同様に政府指導の規格製品生産を続けてきました。農業試験場の新作物を、県単位で農業現場の農家が試行錯誤の職人芸で、安い規格製品生産をしてきました。1パック100円で、スーパーなどで販売されるピーマンやナスやキャベツでは大きな収入にはなりませんでした。一方、商品の品質の高さと厳格な品質管理と「ブランド」の育成による夕張メロンのような「ブランド作物」の成功例もあります。 農業全体の問題で急務なのは、農業に関わる関係者の正確な作物や土壌や農薬や気候に対する科学的な知識教育と研究者の実証研究の共有化と啓蒙です。個人や地域だけで持っている経験やノウハウの公開と共有化が進み、科学として実証研究が進まないと、国民の食の安全も確保されません。 また、科学的な基礎や実証研究の成果を「特許戦略」や「ブランド戦略」として実現していく多くの専門家の協力も必要です。農業には種苗法という法律もありますが、紀州梅で有名な梅の苗をずいぶん前に中国が大量に持ち出し、紀州梅に負けない品質の梅が、日本に輸出されるようになると慌てて対応を検討するというようでは、今後のアジアからの農産物輸出には対抗できません。日本の高付加価値で品質の高い作物品種がアジアなどの海外に持ち出され、気がつかないうちに高品質の作物が輸入されるような失敗は、今後は大きな問題として取り上げられなければなりません。日本の四季豊かな作物の品種と育成ノウハウの流出は、日本から高品質の「ぶどう」や「なし」や「りんご」や「桃」や「みかん」などの産業崩壊にもつながります。日本の農業の職人芸と歴史的な作物改良の努力を、簡単に輸出してしまう状況は大きく改善される必要があります。 また、農薬の影響や土壌微生物の研究や遺伝子的な分子育種や安全な作物証明のための作物トレース問題なども、農業の生産と物流と販売を考慮した総合的な仕組み作りも必要です。 専門家結集し、研究を総合的に管理し、科学的な農業を教育し、高度な付加価値の高い農業のための「特許戦略」や「ブランド戦略」を実施し、アジアにも輸出していく国際競争力ある農業の実現にこれから多くのヒト、モノ、カネを投入しなければなりません。 日本の国民に、農業作物の知識を公開し、発信していく仕組みも必要です。農業農薬の状況と知識、安全性の確保のためのコストと努力の情報公開、「成り済まし」作物や「虚偽生産地」作物の排除のための流通システムの構築など、これからの作業は膨大です。産業的にも大きな利益を生み出す農業の復興の活動に、これから日本の多くの専門家の協力を期待します。 水産業の知的財産権戦略 日本の水産業も、現在大きな岐路に立っています。日本国内の漁業資源を枯渇させ、現在は海外の水産資源をお金で購入しているといえばよく聞こえるのですが、事実上は枯渇させる方向で膨大な海外水産資源を消費し続けています。育てる水産資源を怠った日本の巣産業ですが、海外の水産資源まで買占めよる枯渇を進ませています。なぜ、育てて増や水産業の実現が日本はできなかったのでしょうか。海外から輸入できるし遺産資源には限度があります。育てて増やす水産業を実現できなければ、やがて日本人でも手が届かないほど水産資源の価格が上昇するでしょう。消費尽くす資源から育て増やす資源へ政策への転換は、今後の日本の食の問題を考えれば、当然のことと考えます。魚類資源に対する消費の膨大さに比べ、基礎研究や養殖研究の貧弱さも今後は大きく改善が必要です。日本人が必要とする水産資源は、日本国内で育て増やしていく水産業の努力が安全な食を確保するためにも必要です。 魚類の有機水銀の含有量によっては、食べ過ぎると明らかに害が及ぶ魚や通常どおりでも食べても、もはや危険な魚が明らかにありつつあります。日本人の有機水銀の摂取量が国連基準の5倍から10倍にもなっている主婦や妊婦の存在は、将来の日本の子供世代に重大な脳障害の危険性も警告しています。日本人の現時点の毛髪に含まれる有機水銀量は、世界でも信じられないほど高いものになっていることさえ知られてはいません。 畜産業の知的財産権戦略 乳製品や食肉製品の問題は、社会的にも大きな問題となりましたが、牛乳、クリーム、チーズ、ヨーグルト、ハム、ソーセージの分野は、製品加工技術だけでなく微生物科学の高度な科学分析が必要な分野でもあります。 畜産製品はヨーロッパを見ると分かるように高度な「職人芸」教育と「ブランド」戦略によって、大きな伝統産業として存在しています。高度な微生物学や醸造学の化学的な研究によって、この分野は大きな知的財産権分野になりえます。 関連産業の知的財産権戦略 農産物や水産物や畜産物から関連する産業としては、ワインや酒などの酒類産業、味噌醤油などの調味料産業、漬物産業、緑茶や紅茶などのお茶産業と多くの産業が関連して存在します。これらの産業も知的財産権の大きな分野でもあります。 日本酒と味噌と醤油の市場だけでも、日本は4兆5千億円ほどの市場があります。 日本は世界史で考えても、古い国家に属し、単一民族の歴史と伝統は他の国家にはない財産です。伝統に支えられ、日本国民が歴史的に「安全」を証明した多くの作物や加工食品があります。伝統を生かすことが「ブランド戦略」には必要であることが、日本ではまだ十分に認識されていません。 米国は「ブランド」で考えた時に、欧州の膨大な歴史のある「ブランド」には対抗できていません。歴史の浅い米国では「ブランド」を育成する歴史が浅かったのです。米国の知的財産権戦略が「特許戦略」に傾いたのは、「ブランド」の弱さからです。米国の「特許戦略」に比べれば、欧州は歴史と伝統を生かした「ブランド戦略」で産業を維持してきました。世界に先駆けて発展し、人件費が高くなった欧州は、産業競争力が低下し、多くの産業が外国の安い製品によって壊滅的な打撃を受けました。コストを積み上げて利益を確保する「コスト経営」では欧州の産業が壊滅する危機に、欧州は新たな戦略を生み出しました。 あらゆる産業を職人芸の厳しい技術管理をし、品質管理を徹底した「ブランド戦略」は、生産コストの数倍、数十倍の利益を生み出すことに気がつきました。どんなに人件費が上がっても、「ブランド戦略」によってもたらされる高い利益が欧州産業の雇用を支えています。 自動車、時計、文房具、衣料、バック、アクセサリー、ワイン、ハム、チーズ、タバコ、ベルト、家具など、数え切れない欧州の「ブランド」が、国際的に高くなった欧州の人件費をカバーしても余りある利益を可能にしています。日本は欧州と同様の歴史と伝統があり、米国に負けない技術大国でもあります。 「ブランド戦略」と「特許戦略」の両方が可能な日本は、米国にも欧州にも大きく優位にたっているのです。今こそ、日本の「特許戦略」と「ブランド戦略」の実力を、見捨てられた産業の復興で実現したいと考えます。日本の「食の文化」の復興は、高度な科学と歴史的伝統に支えられた、新たな高付加価値産業の復活を意味し、最先端の知的財産権によって新たな産業復興が可能になります。すでに、農林・水産・畜産業の知的財産権戦略の準備は整いつつあります。知的財産権の新たな潮流として、農業・水産業・畜産業の分野を定着させていきたいと思います。 |
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