May.2002
韓国固有の価値観 (2)
〜 韓国社会の価値観 〜

中嶋経営科学研究所 所長 中嶋 隆


韓国社会の価値観

コンテンツNo.8(「韓国の歴史的社会文化構造」)で解説してきた韓国人の血縁、地縁、学閥などを中心とした価値観は、さらに、年齢や肩書きによっても影響を受け、最終的には一族の繁栄を最優先とした地位と権力を獲得する競争の中で複合的に形成されていく。韓国社会では血縁や地縁の他に、特別な関係が存在する。韓国人は至る所で『お兄さん(ヒョン)、お姉さん(オンニ)』を口にする。韓国人は、上下関係を厳密に表現する韓国語の世界にいる限り、社会的地位の上下関係から逃れることはできない。したがって、特に気に入った先輩は、学校であれ、会社であれ、『お兄さん、お姉さん』と習慣として呼ぶようになる。韓国人が『お兄さん、お姉さん』と呼ぶのは親しさの表現であるが、他人から兄、姉と呼ばれる気持ちは、日本人には理解できない。おそらく、韓国人には血のつながっていない『お兄さん、お姉さん』という人間が、何十人もいるはずである。日本人から見ると、本当の兄弟が誰なのか分からないくらい、社会的な先輩後輩関係による兄弟姉妹が存在するのである。

韓国人は血縁、地縁、学閥、企業といった集団を基礎として行動し、価値観を共有している。例えば、会社では昼食も集団で食べに行き、一人で食べることは稀である。しかも、年長者が必ず全員の支払いをする慣習があり、このことは必然的に、企業が会社の上司である年長者に食事特別手当を用意することとなる。

また、韓国人にとって、地位と体面は連動している。つまり一流企業の課長ともなれば、マンションや自家用車の購入は当然のように思われ、それがないと体面が保てないということにもなる。会社には自家用車で通勤し、電車やバスなどを使わないため、朝の道路は大渋滞する。駐車場の確保も大変で、自家用車を利用しない合理性などは、個人の体面を考えれば通用しない。

韓国人にとって、最も重要なことは一族の繁栄と体面である。より優秀で成功する人材を、一族の中から一人でも多く輩出し、他の一族より優位に生活することが、最も重要なことなのである。そのため、家計支出の50〜60%を教育費が占めることになる。自分の子にどこまでの教育を受けさせたいかという問いに対して、「大学院までの教育を受けさせたい」と答えた親は、韓国では46%、米国では43%、日本では1.8%であったという結果からも、韓国家庭の教育に対する考え方が如実に反映されている。韓国人は、一般的な家庭においても、子弟は大学院の修士・博士課程卒業を、当然の学歴として考えている。子供の教育に対する親の意識は日本と韓国では大きく異なるのである。

韓国人は一族の代表として、血縁に守られ団結し、地縁という郷土のために働き、新たな時代のリーダーを競って輩出するために、教育に躍起になる。しかし、社会的な競争を公認しながら、一方で、年長者の前では喫煙や飲酒もまともにできない年長者優先の慣習も存在している。韓国人は能力だけでは割り切れない年長者に対する尊敬も要求される。

また、社会的な福祉も、一族が様々な生活場面で協力し、相互の扶助を行う。経済的な援助の体制が、一族で確立しているのである。事故や病気、起業の資金など経済的な様々な援助が、一族で協力して行われる。韓国で最も発達した産業が教育産業で、最も遅れた産業が保険業であったのには、韓国の文化的制度的な理由があった。現在も韓国の社会保障制度は、欧米先進国には大きく遅れている。釜山で公務中に大火傷を負った警察官が、治療費のために家を売り払ったという報道は、韓国社会に衝撃を与えた。公務員は勤務中に死傷しても労働災害保険などの補償はないし、特殊な手術や薬については保険適用外であり、3年経過後にはすべて個人負担となる。毎年1000人を超える警察官や消防士が勤務中に死亡しているが、ほとんど補償がないという状況に、いずれ警察官や消防士の成り手がなくなるという報道が注目された。韓国では、医療保険が適用される1日600円の入院施設はほとんどなく、通常は10倍する入院施設ばかりで、医療保険の適用可能な6人部屋の入院施設に入るのは、宝くじにあたるくらい運がいると言われている。一族の支援のない者は、いざという時には社会保障もない状況に陥る。韓国では一族こそが個人の社会保障の担い手であったのである。

韓国のインターネットやブロードバンドの普及も、教育に熱心な韓国人の気質が影響している。学校教育でインターネットが利用されると、韓国の親達は子供の教育のために、インターネットに急速に加入しだした。一族や親の面目として、インターネットに加入したのである。子供の教育のために加入したインターネットは、1998年のIMF危機による大不況の中で、大人達が急速に利用し始めることになった。手持ち資産をEC投資によって運用し生き残ろうとする者、PC房を起業する者など、インターネットを利用したビジネスがIMF管理下における最悪の経済状況の中で動き始める。韓国人は教育こそが個人の地位と生活を大きく変えるものと信じている。したがって、財閥からリストラされた大人達は、経済的な危機を乗り越えるために、大いに勉強した。IMF体制下、経済不況が深刻化する中で、職を失った大人達は図書館に押しかけ、韓国の全国の図書館は、彼らが勉強するために連日満席になったのである。このような、再起をかけた大人達の能力習得の努力は、新たなビジネスを生む方向で動いた。IMF危機以降、韓国はインターネット・ビジネスが本格化するが、初期の段階は教育のためのインターネットを、IMF危機の中で、経済的社会的困難に陥った大人達が、新しいビジネスとして利用し始めるという、歴史的な偶然が、現在の韓国のインターネット状況を作り出すことになったのである。

韓国社会の特徴に、韓国人特有の購買行動がある。韓国人は、様々な生活必需品を購入する時に、血縁、地縁など知り合いの関係の店で買い物をする。知人の紹介が有力なアクセスとなり、知らないで行くのとは全く違う待遇を受ける。また、キムチの季節などは、市場でまとめて材料を購入する。韓国人のこの伝統的な購買行動は、今、インターネットの普及によって大きく変化しようとしている。ネットで購買する韓国人の増加は、従来の知り合いから購入するという、伝統的な購買行動を大きく変えようとしている。人のつながりに社会関係の基礎を置いていた韓国人が、インターネットを通じた新たな出会いと、゛ネットコミュニティ"の中での新たな人間関係と購買行動を模索している。

韓国社会では、日本と違って家賃が支出の30%ということはなく、家計支出が教育費と食費に大きな支出割合(合計で70〜80%)となる点も特徴のひとつである。韓国は多くの場合、月々の家賃は゛ただ"なのである。韓国には"チョンセ"という家賃制度があり、入居時に保証金を払うと家主は保証金の金利を家賃収入として、借主は月々の家賃を支払う必要はない。韓国で家やマンションを借りるということは、保証金を支払い家賃はなしということである。従って、月々の家計支出から家賃が発生することはなく、この韓国の家賃制度が家計支出の内容を日本とは違ったものにしている。教育費や食費に多くの支出をしても、家賃支出がないため購買力はあると考えてよい。一方で、保証金は高額であり、韓国では日本のように簡単に部屋を借りることはできない。当然、ソウルに来る地方出身者は下宿か、友人や知人と部屋をシェアーして使うことになる。(近頃は日本の月額賃貸マンションも出てきており、多く利用されるようになった。韓国では日本のように若者がワンルームマンションなどを簡単に借りられなかったが、賃貸も増えつつある。)一部屋に何人も住むことで、流行は加速度的に広がるのも韓国の特徴である。インターネットの普及も、こういった韓国特有の住宅事情が影響している。




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 韓国固有の価値観 (2) 〜 韓国社会の価値観
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 韓国の歴史的社会文化構造 (3) 〜 韓国の軍閥と学閥
 韓国の歴史的社会文化構造 (4) 〜 韓国の財閥

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