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November.2000
IT革命について

中嶋経営科学研究所 所長  中嶋 隆


1.目新しくない「IT革命」
IT業界でもう20年も仕事をしてきて、最近の「IT革命」には驚きます。まず言葉として突然「IT革命」といわれても、過去5年くらいのIT業界では革命続きでいまさら「IT革命」と騒いでもIT業界の人間としては別段騒ぐことでもないと思っています。ITが何かを自動的に変えてくれるという印象と誤解は現在も根強いものがあるようで、1995年くらいから新たなソリューションとして登場したERPやSCMなどもまるで技術が努力も工夫もしないで人間や組織、そして企業や社会を変革してくれるような誤解を生みました。 その後もSFA、CTI、CRM、KMなどのソリューションが登場して、いよいよECの登場で、突然「IT革命」なる言葉がマスコミを席巻しました。  ITは技術であって、道具にすぎません。原子力や遺伝子技術と同様に人間がいかにITという道具を使うかが問題であって、ITを使いこなす人間の知恵が重要です。現在の技術であるITを考えるときに、最も重要なことはITという技術が実現している背景の理論や手法を理解していないと十分にITを活用することも改良・発展させることもできないという事実です。

2.「IT革命」は現在のことではなく今後5年間に起こる変革のことです
現在「IT革命」と呼ばれているものはインターネット技術によって実現できる変革の可能性を考えて「IT革命」と呼んでいるようですが、日本におけるインターネットはまだ始まったばかりで、普及もこれからというところです。すでにインターネットが普及し尽くして、EC(電子商取引)も盛んであるかのように報道されていますが、インターネットの普及もECもまだ始まったばかりであるのが現状です。「IT革命」とい言葉が意味するところの変革は今後5年以内に次々と起きる変革のことで、現在のことではありません。

具体的にお話しますと、日本は現在低速インターネット環境で普及も20%くらいですからまだ20%の位の人が歩くことから自転車のビジネスを始めた状況です。欧米、韓国、台湾、香港、シンガポールなどは高速インターネットの時代に入りました。かれらは自転車のビジネスからトラックのビジネスを考え始める環境を手に入れました。日本人は自転車の環境でトラックのビジネスがどんなものか環境がないので経験できません。日本が高速インターネット時代に入る2〜3年後には、欧米、韓国、香港、台湾、シンガポール、インドは超高速インターネットの時代に入って、スーパーカーのビジネスを始めているはずです。世界中が日本より先に新しい技術が可能にするビジネス環境を手に入れるのに対して、日本はその経験もできない状況で、ビジネスモデル特許などの知的財産権の権利は大きく立ち遅れます。すでに欧米や韓国では高速インターネットのビジネスモデル特許の出願が始まっています。日本は高速インターネットを経験できないために高速インターネットが実現するビジネスがどんなものか想像もできません。今後起きる変革は、高速インターネットと超高速インターネットのテクノロジー変化でビジネスの実現技術が大きく変わることを意味します。低速インターネットの日本のECは高速インターネットの技術革新で多くが滅びることとなるでしょう。ビジネスを実現する技術革新の波が、今後2度起きることで、現在のECビジネス環境は激変します。高速インターネットと超高速インターネットの時代には、企業内業務システム(ERP)や企業間システム(SCM)もECのスピードにあった処理を可能にする必要があります。EC側のネットデータが今後2〜3年で100倍や1000倍になる状況ではこれまでの企業システムも大きな変革を余儀なくされます。今後IT革命によってもたらされる変化があるとすれば、2度のネット技術の革新によってビジネスを実現する環境が大きく変わることです。現在のECなどは革新の名にも値しないものだと考えて、未来に備える必要があります。未熟な技術やビジネス手法に膨大な投資をしてバブルを起こすような現状ではありません。

3.「IT革命」が実現する個人(Professionals)の時代の到来
これまでの企業で働く個人は、社会的な情報や専門的な知識と技術を企業人として企業の費用や設備によって習得していました。当然、企業における個人の技能は企業の教育制度や研修大きく依存していました。ところがインターネットが世界的に普及することによって、百科事典出版企業が出版を止めてしまうくらいの無料の情報がインターネットで手に入る時代になりました。これまで論文を取り寄せるのに郵便で何週間もかかった時代は過去のものとなりました。人類全体の英知や知恵がインターネットで瞬時に無料に近いコストで個人が手に入れられるようになりました。ビジネスに必要な高度の専門知識も夜間大学院などで修得できます。個人が企業にいなければこれまでできなかった専門知識や技能の修得、世界的な調査・研究も個人の手で簡単にできるようになりました。

これからの時代は、企業の中で企業の用意した研修や教育ではなく、個人のキャリアプランに合わせて、個人が自己投資をして専門的知識や技能を習得していく時代です。企業が要求するものだけ考えていれば企業に定年までいられるという保証はなくなりました。ビジネスのどのような変化にも対応できる知識や技能を自己投資して習得ことが、これからの個人には重要になります。一度大学院レベルの教育を受けたというだけでなく、10年に1度、つまり個人の人生の中で3〜4度は大学院に通い、再度すべてを学びなおす必要があります。

現在のITは最先端技術や手法の集合体です。大学卒業レベルでは到底理解できないレベルが現在のITです。ITが実現するビジネスはまさに大学院レベルの技術や手法が組み込まれています。現在では金融工学や高等数学の知識がなければ金融システムを理解するばかりでなく構築もできません。経営工学、統計解析が理解できなければ経営もマーケティングもできないでしょう。製造や物流であればOR理論や最適化の理論理解がなければSCMなども十分に活用はできません。現在の日本にはOR理論や経営工学を知らないSCMコンサルタントが多すぎるし、経営工学や高等数学理論を知らない金融コンサルタントも多すぎます。ソフトウェア工学をしらないITコンサルタント、経営理論や企業会計を知らない経営コンサルタントなどこれまで資格や肩書きで既得権を持っていた人々は、新たに最先端知識や技能を習得したプロフェッショナルの登場で、その存在意義を問われる時代がきたのです。評価される基準は簡単です。無限とも思える勉強を一生継続してやり遂げられる人間であるかどうかです。人が遊ぶときに、人が眠るときに厳しい勉学を一生継続して行けるかなのです。人は競争を通して努力でのみ地位を確保できます。努力なき資格に守られた安住の地はもはや地球上には存在しなくなるでしょう。人は血の滲むような努力の対価としてのみ、地位と報酬を約束されます。

個人の知識と技能に依存する企業  限りなく自分の知識や技能を磨き続け、自己投資に努力し続ける個人の出現に対して、企業は社会的な価値を生み出す個人をいかに雇用し続ける環境を用意するかということが重要なテーマとなってきます。個人の自己投資の努力による成果である著作や特許などは企業の費用や設備を使わないところでこれからは生み出されてきます。企業が社員の知的財産が企業の権利となった過去とはすでに状況が違っています。知的創造活動のための役割が企業中心から個人に移ることによって、ビジネスで最も重要な知的財産権の権利をこれからは企業が社員から買い取らねばならなくなるでしょう。社員のものは企業のものなどと言って社員の特許を勝手に会社名義で出願したり、著作を社員というだけで取り上げて印税を企業収入としたりしている企業は、個人から横領や詐欺を行っていると非難されるでしょう。これからの時代は、努力する強い個人の時代です。企業は個人を育てる力はもうなく、個人が企業を育てる時代です。

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